あの頃のように笑いあえたら
きもち
体育祭の次の日は、代休だった。

私はバイトも休み、近所のいつもの美容室にいた。

「どうしたの、いとちゃん。なんかあった?」

前髪を切ってとお願いしたら、美容師のおっちゃんに心配された。

まあ、無理もない。

小さい頃から、自慢の広いおでこを見せるスタイルをずっと変えたことがなかったからだ。

もちろん私がモデルをやっているなんて知らないおっちゃんには、私の前髪パッツン姿は想像できないんだろう。

「いいから、お願いします」

ーー 早くして。せっかくの覚悟が揺らいでしまう。

「……分かったわよ」

ちょっとオネエの入ったおっちゃんは、やっと私の髪にハサミを入れ始めた。

私はそっと、目を閉じる。

川本さんのカウンセリングを受けた時から、分かっていた。

今の私の心のモヤモヤや小さい頃からの心の壁を崩すには、学校のみんなに知ってもらうのが一番だと。

でも、その勇気がなかった。

そしてあの日、源が私と『うる』を結びつけてくれた。

彼にとっては、私と『うる』には何の違いもない。当たり前なんだけど、私の心は珍しく揺れ動いていた。

源がくれた、小さなきっかけを無駄にしたくない。

そして私が、私と『うる』を結びつける第一歩として選んだのが、髪を切ることだった。
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