あの頃のように笑いあえたら
「いとな、前髪切った?」

ーードキン!

それは、不意にやってきた。

源に柔らかな声で呼ばれるたびにホワンと心が暖まる。

「あ、うん」
「ふーん……どういう心境の変化だ?」

気づいて、くれた。

「それは、話せば長くなる」

源はふっと、私が大好きな優しい笑みを見せる。

そして、大好きな柔らかな声でそっと聞いてきた。

「今日、何時くらいに終わりそう?」

「え?たぶん4時くらい……」

なに?なんでそんなこと聞くの?

口から飛び出しそうな心臓の音が、源に聞こえるんじゃないかと気が気じゃない。

「じゃ、駅で待ってる」
「え?」

背の高い源の顔を見上げたまま、視線をそらすことができない。

「その長い話し、聞いてやる」

わ、源が照れてる……!

前髪を切ったことを気づいてくれただけで、もうじゅうぶんなのに。

「うん……」

ーードキドキ ドキドキ。

もう、心臓が痛いくらいだ。

さ、誘われてしまった。

でも、どうしていつも分かるんだろう?私が話しを聞いてほしいって。

源は、いつも私を前へ向かせてくれる。
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