VS IV Omnibus1 撃墜女王


「そうか、それは残念だ…女王に殴られるのもオツだと思ったんだが」

 真面目に残念がっている男を、うろんな目で眺めながら、ジョウはふと気づいた。

「どこまで…ついてくる気だ?」

 このエレベータが向かっているのは、居住エリア。

 いわゆる、狭いがジョウの私室があるところだ。

 一方、ケイという男はこの船の単なる客で。

 手続きをして宿泊するにせよ、一般兵士の居住エリアではないはずだ。

「………」

 すると、少し考え込む顔になった。

 そして、ポンっと手を打つ。

「オレ…今日、どこで寝るんだ?」

 まったく、考えていなかったのか。

 えんがちょな目を向けると、彼はまた軽く笑う。

「すまんすまん、昔のクセで…素で居住エリアに行こうとしてた」

 慣れって怖いな。

 そんな笑顔の男に、しかし、納得している部分もあった。

 やっぱり、昔はここを母船にしていたのか、と。

 友人の墓もあるし、フロアにも詳しい。

「参ったな…書記官が手配してくれてたろうに、まいてきちまった」

 はっはっはっ。

 しかし、軽い。

 全然、こたえている様子はなかった。

「昔の知り合いはいないのかよ」

 多分。

 この男は、制服組だろう。

 一番、死ににくい部署。

 同じ制服組の知り合いくらい、いそうなものだ。

「あ? あー…うーん…オレ、問題児でここ追い出されたからな」

 ごにょっと、言葉が濁った。

 中佐まで出世した男が、宙母をおんだされるほどの問題児とは。

 どこからどう、突っ込んでいいものか。

 頭が痛くなって、ジョウは眉間を押さえた。

「女王のとこに、泊めてもらおっかな」

 その眉間の真正面に、にこやかな顔が飛び出してくる。

 ピキッ。

 こめかみに、ひびが入った。

「喜べ…殴る!」

 瞬間沸騰したジョウが、拳を振り上げたら。

「あいよ」

 変人は──笑った。
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