VS IV Omnibus1 撃墜女王


 翌日。

 ジョウは、休みの予定だった。

 なのに、昼過ぎに出頭命令が来る。

 撃墜王の報奨休暇も、どうでもいい扱いだ。

 ロクな話じゃない気配を、ビンビンに感じながら、ジョウは上官の部屋へと入った。

「ジョウ=ヒロイ、入ります」

 ぴりっとしない声と態度で、ジョウは敬礼する。

「休暇中、すまんな。君に、特殊任務の辞令が出た」

 ほらほら、来たよ。

 敵を落とせば落とすほど、より厄介な任務がくる。

 そして、いつかどこかで死ぬ。

 まさに、デス・スパイラルだ。

「各部隊の撃墜王たちも投入する、精鋭たちによる特殊任務だ」

 広げられた風呂敷に、ジョウは間の悪いときに、撃墜王の肩書きをもらったことに気づいた。

「君は、この宙母の代表というわけだ。活躍を期待する」

 ジョウが、この船で唯一の撃墜王になる。

 勿論、昔はいた。

 撃墜王のまま引退できる人間が、余りに少ないだけだ。

 大抵が、どこかで命を落としてしまう。

 ついに、自分の番が回ってきたのかもしれない。

「大規模な、地上戦が予想される。久々に、重力圏での飛行任務になるな」

 言葉が増える度に、ジョウの死ぬ確率が上がる気がした。

 重力圏内では、その重力さえ敵だ。

 宇宙空間なら、墜落死だけはないのだから。

「地上では、『パペット』が出る予定だ。君も、噂くらい聞いたことがあるだろう」

 不吉な名前が出される。

 敗北を、ひっくり返す死の人形。

 パペットの噂は、そんな風にジョウの耳に入っていた。

 正式な軍属ではない。

 傭兵、と言ったほうがいいか。

 敗色濃厚なエリアには、追加部隊を送るより、パペットを一人雇えと言われる。

 人間なのか、器械なのかさえ分からない。

 ただ、その身体は小さく、いつも大男と一緒に出撃するため、いつしか『パペット』と呼ばれるようになったのだ。
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