VS IV Omnibus1 撃墜女王


 頭、おかしいんじゃないのか?

 ジョウは笑い伏す男を、うろんな目で見下ろした。

 同じ年くらいに感じるが、本当はいくつかさっぱり分からない。

 飄々としているかと思えば、笑い上戸だし。

 焦茶の髪に、焦茶の目。

 黙っていれば、落ち着いたそれなりにいい男だ。

 しかし、明らかな変人。

「妙なとこだけ歪んでるな…」

 笑いの口を、手のひらで撫で消しながら、彼は表情を少し苦いものに変えた。

「生憎、女扱いされたのは、一番最初だけでね」

 寄ってきたのは、くだらない男ばかり。

 何回か相手してみては、幻滅を味わわされるだけだった。

 ジョウの心の隙間を埋めるどころか、なおさら虚しくなるばかり。

 そうしている内に、彼女に余計な勲章が増えていき、比例して男どもは近づかなくなった。

 この船の人間ではなく、ジョウのことも知らず、変人だったから、一緒に飲むのも気楽かと思ったのに。

「鉄の女と寝たって、自慢にもならねぇぞ」

 自分のあだ名くらい、知っている。

 撃墜女王という肩書きがついたのは、今日だ。

 女の撃墜王なんて珍しいから、こうして構われていることくらい分かっている。

 分かって飲んでるんだから、あんたも空気読めよ。

 ジョウが、悪態をつこうとしたら。

「この船の男どもは、使えないな…見る目もない」

 ぽんぽん。

 あ…たまを撫でやがった!

 余りの出来事に、口がぱくぱくと空回りする。

 完全な、子供扱いだ。

「も…もしあんたが、60過ぎてたら許す…でなきゃ」

 頭に血が昇っていくのを感じながら、ジョウはわななく唇を引き結んだ。

 彼女の怒りを見て、ケイはぽりぽりと頬をかいた。

「残念…その半分だ」

「歯ぁ食いしばれ!」

 既に固めていた拳を、振り上げようとした時。

「中佐!」

 駆け込んできた人間に、邪魔された。
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