VS IV Omnibus1 撃墜女王


 制服組の女だった。

 軍服の違う、後衛職の軍人のことだ。

「中佐、いきなり消えられては困ります!」

 女は、ケイに向かって火を吹いた。

 中佐、ねぇ。

 自分より、えらく上の階級に、ジョウは顔を歪めながら拳を解いた。

 上官だから、殴るのをやめたわけではない。

 空気を察したからだ。

 どうやら、お開きだと。

 どんなにムカつく男でも、この船の人間でないなら、すぐにいなくなるのだ。

 そしてもう、会うことはない。

「よく、ここが分かったな」

「撃墜王の話を聞いていなくなれば、誰でも分かります」

 ため息をつきながら、彼女はジョウを見た。

「すみません、お騒がせして…少尉、撃墜王おめでとうございます」

 白くきれいな手を、差し出される。

 ペン以外、握ったことはないんじゃないかと思える細さだ。

 柔らかい応対に、ジョウは戸惑った。

 握り返す気には、なれそうにない。

「めでたくは…ねぇよ」

 その手から、目をそらす。

「そんなことありませんよ…あなたはこの船の英雄です」

 にっこりと言われた言葉に――絶句する。

 英雄?

 ただ、死ななかっただけだ。

 いや。

 死に損なっただけなのに。

「本当の英雄は…」

 ジョウは、立ち上がった。

 ここにいると、彼女を殴ってしまいそうだ。

 悪気がないと分かっていても。

「本当の英雄は…死んだ奴だけだ」

 ああ。

 胸クソ悪ぃ。
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