VS IV Omnibus1 撃墜女王


「私…何か悪いこと言いました?」

 バーを出ていくジョウの、後ろ姿を見守りながら、書記官は困った声で聞いてくる。

「前線の人間にしか、分からないこともあるのさ」

 ひょい、と。

 ケイも席から降りた。

「あ、中佐…准将がお呼びです」

 逃げる気配でも感じたのか、すぐさま釘をさされた。

 頭をよぎるのは、二人。

「どっちの准将?」

 いやーな予感がする。

 最初から、どっちか言わない辺りがいやなのだ。

 彼女は、にっこり笑って、両手の指で頭にツノを作った。

「あははははー…サイアク。オレ、休暇中なんだよ」

 悪い方の答えに、とりあえずあらがってみる。

 にっこり。

 返事は、笑顔。

「それに、もう酒も入ってるし、真夜中だろ?」

 もう一声。

 にーーっこり。

 揺るがない笑み。

 だめだこりゃ。

「分かった分かった…行くよ」

 しょうがなく、観念した――フリをした。

「扉の前まで、ご一緒します」

 なのに。

 あっけなく、逃げ道をふさがれる。

 彼の性質について、細かい指示が出されているようだ。

 参ったな。

 ケイは、最後の手段に出た。

「君は、帰ってこう准将に言うんだ…ダメ中佐は、泥酔していて、自分で歩ける状態じゃありませんでした、と」

 そう言うなり。

 ケイは、身を翻した。

 実力行使でまで、止められることはないと思ったのだ。

 そして、その通りだった。

 女性を派遣してきたところは、彼の性格を読んでいるすばらしい作戦だ。

 しかし、残念ながら、タイミングが悪かった。

 彼は既に──女王に会ってしまったのだから。
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