VS IV Omnibus1 撃墜女王


「間に合った」

 居住エリアへつながるエレベータを待っていたら。

 後ろから、声がした。

 ぎょっと振り返ると――さっきバーで捨ててきた男がいるではないか。

「なっ…」

 驚きと呆れで、変な声になった。

「オレのカンも、捨てたもんじゃないね」

 一人、うんうんと得意げに納得している。

「呼ばれてたんじゃないのかよ」

 プライベートタイムを割ってまで、制服組が探しに来たということは、仕事絡みではないのか。

「オレは休暇中なの。なんびとたりとも、その邪魔はさせないさ」

 ははは、と軽やかに笑う。

「ああ、でももう…お開きだ」

 その笑いを、彼女はつっぱねた。

 いまのジョウは、残念ながら機嫌がよくない。

 変人と、飲み直す気力はなかった。

「あれ、そうなんだ。誰かを殴りたそうな顔をしてたから、顔を貸しに来たんだが…エレベータ、きたな」

 二つの情報を連続で投げられ、とっさにジョウは優先順位をつけられなかった。

「誰も乗ってないのはついてる…中で、存分に殴られるか」

 その一瞬の隙間をつかれた。

 エレベータに引っ張り込まれていたのだ。

 人に何も聞かず、適当に上の階のボタンを押された。

 見事に、居住エリアの階を押している。

 この宙母に、かなり詳しいようだ。

「さぁ、どうぞ」

 顔が、ずいと近づいてくる。

「何が?」

 混乱の中、それでも彼女は刺の声は忘れなかった。

「いや、殴りたいだろ?」

 至って真面目に返される。

 こいつ、マジだ。

 マジで――変人だ。

 ジョウは、変な汗をかいた。

「殴れって言われて、はいそうですかと殴れっか。あれは、勢いがいるんだ」

 すばらしい変人っぷりに、勢いは失われてしまった。
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