きみと恋の話をしよう
彼は辺りを見回し、素早く奥の恋愛小説コーナーへ向かう。
しばし吟味の後、今日は1冊を手にすると、足早にレジにやってきた。

こちらは、いつもどおり受け取り伺う。


「カバーを、おかけしますか?」


彼が頷いた。千円札を置く手を横目に、手早く文庫本を包む。

今日のタイトルは『意地悪な彼に翻弄されっぱなし』。
アゴクイされたOL風女子と、背の高い男子が描かれた表紙だ。


ごくん。


私は息を飲んだ。

包んだ文庫を差し出すと、勇気を持って顔を上げた。


「佐橋先輩ですよね?」


ストレートに聞いてしまった。

うわー!
もう少し言いようがなかったの?私ときたら!

自分の身も名乗らず、なんの配慮もなし!
迂闊にもほどがあるでしょうよ!

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