きみと恋の話をしよう
「深山さん、こっち」


「はい!」


少し浮かれたように見える佐橋先輩。
早足だし、表情がイキイキしてる。
私は短い脚で一生懸命彼を追いかける。


「はぐれないでね、深山さん、ボーッとしてるから」


「そんなことないですよ。私という人間に勝手なイメージを持ってますね」


「そうかな。結構当たってると思うけど。……ほら、先行っちゃうよ」


この日のために、新しいスカートを下ろしたなんて、佐橋先輩には言わない。

爪に薄くマニキュアをつけたなんて言わない。

髪の毛がうまくまとまらず、朝からパニックだったなんて言わない。

母に「デート?」なんて聞かれながらヘアアイロンで毛先を丸めてもらったとか、恥ずかしいから絶対言わない。


ああ、だけどものすごく嬉しいな。

佐橋先輩と並んで歩いてる。
今にも駆け出しちゃいそうにはしゃぐ、無邪気な佐橋先輩と一緒に。
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