きみと恋の話をしよう
がたん。

佐橋先輩が立ち上がった。

私の方へ回り込んでくるので、こちらも立ち上がる。
自分で言っておいてなんだけど、手が震える。


「触るよ」


佐橋先輩が私の耳にかかる髪を指で避けた。
びくっと震えそうになるのを抑える。

ここで変な反応をしたら、佐橋先輩はやめちゃう。
それは、嫌。
やめないで。

大きな男性の手が私の左の頬に触れた。
ぺたっと包み込むように。
温かくて、緊張と安堵がいっぺんに沸き起こる奇妙な心境になる。


「指で……唇を触る」


佐橋先輩はまるで自分の想像をおさらいするようにつぶやく。

そしてその通り、親指の腹で私の下唇を柔らかく撫でた。

唇が、こんなに敏感な場所だとは思わなかった。
佐橋先輩の指で触れられただけで、心地よさとくすぐったさで身を捩りたくなる。
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