きみと恋の話をしよう
「重ねる」


佐橋先輩の指が離れ、綺麗な顔が近づいてきた。
身長差があるので、彼が屈み込む形だ。

私は精一杯顔を持ち上げ、彼のキスの格好に合わせる。

わずかに右に傾いた顔は間近でぴたりと止まった。

本当は目を閉じるべきなんだろう。

だけど、唇同士の距離はわずかに2センチほど。
お互いがちょっと動いたら、本当にくっついてしまう。

薄く瞳を開け、キスのフリという形で停止する。
佐橋先輩の吐息を感じて、心臓の鼓動は今日一番のスピードになる。


「深山さん、口、開けて」


「は……い」


「そう、舌も少し出して」


先輩の指示のまま、薄く唇を開け、舌先を覗かせる。

ああ、恥ずかしくておかしくなっちゃいそう。
< 76 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop