きみと恋の話をしよう
「深く唇を合わせて、舌を絡める」


佐橋先輩は真面目におさらいの言葉を唱えると自らも口を開けた。
ものすごく色っぽい表情だった。

こんな顔……するんだ。
もっと、見ていたい。


しかし、キスごっこはそこで終わった。


「ありがと、深山さん」


佐橋先輩の妙に落ち着いた声が聞こえ、ハッと我に返る。
佐橋先輩がまだ赤い頬のまま、私を見下ろしていた。距離はもう先輩と後輩のものに戻っている。


「参考に……なりましたか?」


「うん、すごく」


照れたように笑われて、私も笑い返すしかない。

これは、フリ。ごっこ。

自分で提案したんだから、変に期待したりドキドキしたりしちゃダメ。

私は佐橋先輩の役にたちたかっただけだから。
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