きみと恋の話をしよう
5.いつかまた恋の話を
異変は音もたてずにやってきた。
その週日曜の朝、佐橋先輩は書店に姿を見せなかった。
最初、私は焦り、他のお客様が入ってくるたび、佐橋先輩ではと伸びあがった。
しかし、佐橋先輩は約束の時間に現れない。その後もだ。
一日やきもきとして過ごした私は、16時に退勤するまでため息をつきどおし。
日曜朝、ほんの1時間の語らい。
それを楽しみにしていたのは私だけだったのかもしれない。
退勤し肩を落として、駐輪場に出た。
キラキラの初夏の太陽すら疎ましい。
しょぼくれながら自転車の鍵を外すと、不意に声をかけられた。
「深山さん」
振り向くとそこには佐橋先輩が立っていた。
「先輩っ!」
思わず駆け寄ってしまう。
嬉しくて頬が緩んだ。
こんなわかりやすい態度じゃいけないと思いながら、先輩の顔が見られて嬉しくてしょうがない。