きみと恋の話をしよう
「深山さん」


自転車のハンドルを持つ私の左手に、佐橋先輩が手を添えた。
どきんと心臓が跳ねる。


「本当にありがとう……えっと」


佐橋先輩はそこから先の言葉を見つけられない様子だった。

やめて、そうやって無意識に私を翻弄するのはやめて。

私はゆっくりと進みだす。

佐橋先輩の手はするりと重力の方向に落ちる。

その感触が永遠のように感じられた。


「先輩、それじゃあ、失礼します。お気をつけて」


「深山さんも……」


私たちは一度だけ微笑み合った。
それから、私は佐橋先輩に背を向け、自転車に乗った。
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