グーグーダイエット
「こうなったらアイツ関係なしに絶対痩せてやる! 目指せハンちゃん!!」
 3人はぽかーんとしていたが、やがて3人とも笑い飛ばした。さと子もつられ、全員で明るく笑い飛ばした。

 食事を終えると、職務を全うした。何時もより1時間近くがかかってしまったので、ダイエットをする時間が短くなる。席を立ち上がると、そのままダッシュ。入口まで走る。入口前にいた達海が鬼気迫る気配に振り向く。
「じゃ! 絶対痩せてやるんだからね!!」
 さと子はそれだけ言い残し、そのまま駅へと走って行った。風圧に、整っていた髪の毛がボサボサになった達海。そんなことも気に止めず、彼はどんどんと小さくなっていくさと子の背中を見つめていた。憂いに沈んだ瞳で。

 家にあった作り置きのおにぎりと、追加でステーキとサラダを追加する。おひたしも作らなければ。少しアンバランスだが、今のさと子の熱量に献立など気にもならない。全員が登場すると、妙に何時もよりやる気のあるさと子に、スーさんは首を傾げる。
「どした? 女に悪口でも言われたのか?」
「ああ、そう言えばさっき……」
サラダがさと子に苦言を呈していたことを話した。スーさんは腕を組み、「はっはーん」と言う。可哀想と口元に着物の袖をしとやかに当てているひたし様。
「んだ。けども、こんな真っ暗になってからはじめるのかぁ?」
 うん? スーさんが、隣の男性の口調に横目で見た。
「んだぁ。だってぇ、達海は痩せろって言ったくせにぃ、痩せたって私に興味なんてあるわけねぇんだぁ。だったらよぉ! アイツがアッ! っと驚くぐれぇ、痩せてちょっとでも見返してやりてぇんだぁ!!」
「ええじゃねぇのええじゃねぇのぉ!!」
 さと子も完全につられている。隠していた心の内を、簡単に口にしてしまった。気付いた時にはもう遅い。男性陣は皆さと子に顔を近づける。おにぎりは眉太で少し懐かしさのあるハートフルな日本男子。スーさんは目元の隈取りが印象的な、大江戸の伊達男っぽいイメージの男性。サラダは北海道で牧場経営をしていそうな、自然系男子。ひたし様は、線がきめ細やかで華奢で何もかもが美しい。宝塚にいそうな美しい男子。他の食べ物も含め、全員が違う形ながらもイケメンなので、恥じらいも無く近づく顔にさと子も戸惑う。
「おめー、ヤケになってねーか?」
「え、えっとぉ……」
 スーさんに痛いところを突かれ、さと子は指先をつつくことしか出来ない。
「まぁまぁ。理由はどうあれ、目標を持つのは良いことだってぇ。なぁ、もう真っ暗だしよぉ、もし体動かすなら、室内や店で出来るようなのにしねぇとなぁ」
「だな。けど、ジムはちょっとお財布に痛いんだよなぁ、庶民には」
 それは私が庶民だと言うことか。心の中で若干引っかかりがあったものの、実際会費を払ってまでジムに行きたいかと問われれば、さと子はまだその域に達していない。出来ることならば、お金をかけずに少しでも痩せたい。
「今日は雨降ったから特別暗いし、滑りそうですものね。さと子様、本日くらいはお休みしたら如何です?」
「お風呂入って、ストレッチするだけでも、きっと効果は出ますよ?」
 野菜料理2人が、落ち着かない様子のさと子をなだめる。だが、さと子の気は収まらない。呆れるスーさんと、心配する野菜料理。ぎりの助だけは反応が違った。
「まだまだ長い人生なんだぁ、とりあえず自分のしたいことをすれば良い! 俺がこの口調で良いと言ってくれたように、さと子だって何やったって良いんだぁ。俺は付き合うぞ!!」
 ぎりの助の言葉に、スーさんや野菜達の反応も変わる。
「ま、それもそうだな。それで後で痛い目見たってお前次第。その覚悟があるなら手伝ってやるぜ」
「う、うん……勿論だよ」
 さと子の表情が強張るので、ひたし様が間に割って入る。
「痛い目とはステーキ……おひたしめも応援しますよ!」
「そうだね。自分の好きなこと、したいもんね。それじゃあどうします?」
 サラダに問われ、皆で考える。室内で出来る、あまりお金のかからないダイエットとは?
「ごめんパス。俺外で体動かすことしか分からねぇ」
「申し訳ありませんが、私も……」
「おにぎりはどうですか? ちなみに僕も駄目です」
 おにぎりは、「う~ん」と長く伸びる唸り声で全員の注目を集めると、妙案が浮かんだらしく、目の前にぴかっと光る電球が浮かんだ。
「プールとかどうだぁ? この時間ならギリギリ~……1間くらいは出来ると思うなぁ」
「ぷ、プール!?」
 さと子は思わず後ずさる。嫌そうなさと子に対して、男性達は皆乗り気だ。
「それ良いなぁ。市民プールなら料金も安価だし、庶民には有難い」
「プールは案外体力使うそうですものね。全身の筋力を上げられそうです」
「この時間なら人少なそうだし、最悪溺れても僕達が助けに行けるかな」
「いや……私、水着合うの持ってないし……」
「んなの、借りれば良いじゃねぇかぁ」
「んだぁ」
 んだぁの声が3人分聞こえてきた。それは勿論、ぎりの助とさと子意外の3人。その中の1人の男性は、照れくさそうに咳払いをした。
「そう言うことだ。さっさと行くぞ」
「プール以外で……」
「オイ。さっき痛い目を見る覚悟は勿論あるって言ったよな?」
 今まで散々わがまま言ったのだ。さすがに全員の表情が厳しい。この状況で嫌ですの選択肢はあって無いようなものだろう。
「……行き、ます!!」
 駄々をこねる感情を突き離し、さと子は準備を整えると、急いで近くの市民プールへと向かった。
 さと子の住む場所は偶然にもスーパーやコンビニなど、近くにあると有難いものが多い。市民プールも、10分程歩けば着く。それにしても、着替える時間を加えると、実際に泳げるのは30~40分か。しかし泳ぐのは久々で、体力だってさほど無い。このくらいで丁度良いのだろう。急いで水着を選び、料金を払って中へと入る。とりあえず一番大きいサイズを選んだが、まさか入らないと言うことは無いだろうな。神に祈りながら着替える。今までのダイエットの成果が出たようだ。水着が何とか収まった。シャワーを浴びて移動すると、そこには普段の格好とは違う、水着を着用した食べ物達がいた。男性の水着姿を実際に見る日が来るとはなぁ。少しドキドキする。
「よし、まずは水着はクリアだな」
「それならぁ……」
 ぎりの助は、あくびをし、目をこする監視員を見る。ニヤッと笑うと、さと子の手を引いてプールに飛び込んだ。先を越された。3人が続けて飛び込む。さと子1人分とは思えない程の広範囲な水の波紋に気付かず、監視員は目を閉じてはうっすら開けるを繰り返す。
「ひゃーっ! これがプールかぁ。入ると気持ちいいんだなぁ」
「そうでしょ。ちょっと嫌だったけど、全然人いないから、体型で後ろ指差されることは無さそうね……良かった」
「この世におめーくらいの体型で堂々とビーチ行ってるヤツなんてそこら中にいるだろうが。何気にしてんだか。にしてもあの監視員ちょろいな。狭いから隣で泳ぐかな」
 スーさんは隣の本格コースで泳ぎ始めた。その美しいフォームに思わず見惚れる。あれくらい泳げるようになりたいものだ
< 23 / 36 >

この作品をシェア

pagetop