グーグーダイエット
「さと子、行くぞ!!」
「来るなら来いやーっ!!!」
さと子は吹っ切ってバットを構える。が、つけ坊主の投げたボールは見事さと子の隣を通過し、ぎりの助のミットの中に収まった。流石、動きは鈍いが、安定感がある。ぎりの助は、キャッチしたボールをつけ坊主へと返した。同時に、さと子がバットを握る手の力も強まる。2回目、つけ坊主の投球は先程より格段に弱くなっていた。女性であるさと子に気を遣ったのだろう。頑張れば打てそうであったが、さと子はそれを見逃すと、つけ坊主に言った。
「気を遣わないで! こんな弱い球を打つくらいなら三振するわ!!」
さと子の強気な言葉に、つけ坊主は驚きながらも、頼もしそうに笑った。
「すまんすまん! それで満足するお前じゃなかったな!! よし、今のは無しだ。後2回で片付けてやるよ」
つけ坊主は先程にも増して神経を研ぎ澄まし、ボールを投げた。最初の投球よりも格段に速い。始めのも気を遣っていたと言うことか。こんなにも速く、怖いのに、さと子は不思議とワクワクしていた。あと一回で片付けられてしまうかもしれない。ならば、せめて全力を尽くそう。一つ息をつき、気を落ち着ける。
つけ坊主が構えると、ボールが飛んでくる! と直前で直感的に気付く。フライングではあるが、自分にはこれくらいが丁度良いのかもしれない。さと子はバットを振った。球とバットが振れるまで、50、40、30センチ……。さと子は思わず目を瞑っていた。
現実が怖く、目を開けられなかった。しかし、目を開けなくとも分かる。この空気をかすめただけの感覚は……さと子が薄らと目を開けると、つけ坊主とぎりの助以外の皆がさと子に必死に手を振っていた。足元を見て見ると、球が転がっている。ぎりの助が球をキャッチ出来なかったのだ。そうか、こう言う時って一塁進めるんだっけ。さと子は必死に走った。何だか自分の力で戦えた気がしなくて腑に落ちなかった。やはり、自分が出る幕では無かったのだな。さと子は切なそうに走った。
試合は何とも言えないモヤモヤとした気持ちで終了した。さと子は思わずため息を付いた。そんなさと子を皆、頑張ったと褒めてくれたが、自分はただ立ちつくしていただけ。始めは何とも思っていなかった野球だったのに、案外関わってみるとこんなにも感情を揺さぶられるものなのだな。そう思って空を見ていると、鼻をすする音が聞こえてきた。音の方を振り返ると、ぎりの助が悔しそうに泣いていた。さと子は駆け寄り、「どうしたの!?」と尋ねた。皆もさと子の声で気づいたらしく、どんどんと駆け寄ってくる。
「いやぁ……何だか球も取れねぇ自分が不甲斐なくなって……。すまねぇ、こんな所で泣くつもり無かったんだ」
さと子はハッとした。てっきり、さっきのエラーはぎりの助が同情してやってくれたものだとばかり思っていた。だが、彼も彼なりに必死にこの勝負に取り組んでいたのだ。自分の失敗ばかりに目を向けて、落ち込んでいた自分が情けなくなった。
「何言ってるの……私が1回も打てなかったくらいよ? つけ坊主の球が強すぎただけよ」
「だな。俺の球を1度でもキャッチ出来たお前は凄いんだぜ? 俺の草野球歴なめんなよ!!」
さと子とつけ坊主がニッコリと笑うと、ぎりの助は安心したのか、泣きながら笑った。それを見て、他の皆も温かく微笑んだ。
試合が終わると、さと子が作った料理以外の食べ物男子達は、手を振っていなくなった。ぎりの助もあれからこれからはもっと草野球を頑張ると意気込んでいた。食べ物男子達と野球を頑張るぎりの助の姿が目に浮かび、微笑ましい。さと子はニコニコと笑っていた。
「何じゃ、ニヤニヤしよって」
「ふふ。始めはどうなるかと思ったけど、案外野球も楽しかったなって」
「でしょうでしょう!? 流石、我等がさと子さんです」
カリー伯爵が何時にも増してグイグイ来るが、その気持ちも分からないことは無い。スポーツには、その試合の数だけ、汗や涙が入り混じっているのだろう。そして、そこがまた、この競技の良い所なのだから。
「カレーは野球のことになるとうるさいんだから。でも、楽しかったね。何だか、普段はあまり関わらない食べ物とも関われて、ぼくも良い経験を出来たよ」
「へぇ。じゃがくんってどんな料理にでも合いそうだけど、あまり関わらない子とかいるんだ?」
「うん。まぁ、にくじゃがだからね~漬物とかおひたしには合うけど、鍋とかと一緒に肉じゃが食べないでしょ?」
「確かに」
「なべ姉とはちょっと話したことはあったけど、あんなに精悍な人だったとはね。意外だったけど面白かった」
試合を思い返すと、今回のMVPは間違いなく彼だった。彼は、記憶に残るようなファインプレーを幾つもやってのけた。何より、あのスーさんの球を1発で打ち返したのは大きい。
「でも、本当に悔しかったなぁ。あともうちょっとでつけ坊主の球打ち返せた気がするのに~」
「何言ってんだ。目瞑ってるようじゃまだまだだよ。な?」
「ですね」
つけ坊主とカリー伯爵は、さと子を見ながらニヤニヤと笑った。
「何よもう~!」
ムッとするさと子を見て、神様が高笑いした。つられてじゃがくんも笑っていた。歩く5人の影は、夕日に姿を照らされて色濃く映っていた。
家へと戻り、さと子は風呂を上がると料理を頂くことにした。両手を合わせて、何時ものように、「いただきます!!」をする。カレーをかき込むと、まろやかな味が口全体に広がって言った。次に肉じゃがを食べる。これまた優しい味だ。どちらの料理にも芋が入っているので、お腹にもすぐ溜まって、ダイエットを志す者にとっては強い味方になってくれる。最後に、漬物を食べた。野菜に染みついた塩のしょっぱさが、先程の体の疲れをほぐしてくれるようであった。また、このしょっぱさが、少し涙の味と似ていて、感傷的な気持ちにもなる。きっと、あの時のぎりの助の涙はこのような味だったのだろうなぁと思うさと子。おにぎりの味付けも塩だしね。心の中で上手いこと言っていると、隣にいた神様がニヤリと笑った。
「今お前、上手いこと言ってドヤ顔したのう」
「う、うるひゃい!」
食べながらなのでつい変な口調になってしまった。かっかっかと笑う神様を無視し、水を飲んだ。全て食べ終えると、さと子は何時もの通りに両手を合わせる。
「ご馳走様でした」
「うむうむ。美味かったかの?」
「はい。やっぱり、和食も良いですね」
「そうじゃな。それじゃあ、ワシもそろそろ失礼するかの! 今回は非常に楽しかった!! 感謝する!!!」
神様は手を振り、即座にその姿を消した。全く、神出鬼没な人である。呆れながらも、さと子は微笑んだ。テレビを付けると、丁度スポーツ番組がやっており、カリー伯爵達と見ていた野球の試合のプレイバックをしていた。一度見たはずの試合なのに、再度釘づけになっている自分がおり、新聞を開くと、明日の試合の時間を調べていた。これは、次カリー伯爵に会った時にはネタが尽きなさそうだ。さと子は見事にカリー伯爵にしてやられたような気持ちであったが、すっかりと彼や、彼の大好きな野球の魅力にどっぷりとハマっていた。
――現在の体重、76キロ
「来るなら来いやーっ!!!」
さと子は吹っ切ってバットを構える。が、つけ坊主の投げたボールは見事さと子の隣を通過し、ぎりの助のミットの中に収まった。流石、動きは鈍いが、安定感がある。ぎりの助は、キャッチしたボールをつけ坊主へと返した。同時に、さと子がバットを握る手の力も強まる。2回目、つけ坊主の投球は先程より格段に弱くなっていた。女性であるさと子に気を遣ったのだろう。頑張れば打てそうであったが、さと子はそれを見逃すと、つけ坊主に言った。
「気を遣わないで! こんな弱い球を打つくらいなら三振するわ!!」
さと子の強気な言葉に、つけ坊主は驚きながらも、頼もしそうに笑った。
「すまんすまん! それで満足するお前じゃなかったな!! よし、今のは無しだ。後2回で片付けてやるよ」
つけ坊主は先程にも増して神経を研ぎ澄まし、ボールを投げた。最初の投球よりも格段に速い。始めのも気を遣っていたと言うことか。こんなにも速く、怖いのに、さと子は不思議とワクワクしていた。あと一回で片付けられてしまうかもしれない。ならば、せめて全力を尽くそう。一つ息をつき、気を落ち着ける。
つけ坊主が構えると、ボールが飛んでくる! と直前で直感的に気付く。フライングではあるが、自分にはこれくらいが丁度良いのかもしれない。さと子はバットを振った。球とバットが振れるまで、50、40、30センチ……。さと子は思わず目を瞑っていた。
現実が怖く、目を開けられなかった。しかし、目を開けなくとも分かる。この空気をかすめただけの感覚は……さと子が薄らと目を開けると、つけ坊主とぎりの助以外の皆がさと子に必死に手を振っていた。足元を見て見ると、球が転がっている。ぎりの助が球をキャッチ出来なかったのだ。そうか、こう言う時って一塁進めるんだっけ。さと子は必死に走った。何だか自分の力で戦えた気がしなくて腑に落ちなかった。やはり、自分が出る幕では無かったのだな。さと子は切なそうに走った。
試合は何とも言えないモヤモヤとした気持ちで終了した。さと子は思わずため息を付いた。そんなさと子を皆、頑張ったと褒めてくれたが、自分はただ立ちつくしていただけ。始めは何とも思っていなかった野球だったのに、案外関わってみるとこんなにも感情を揺さぶられるものなのだな。そう思って空を見ていると、鼻をすする音が聞こえてきた。音の方を振り返ると、ぎりの助が悔しそうに泣いていた。さと子は駆け寄り、「どうしたの!?」と尋ねた。皆もさと子の声で気づいたらしく、どんどんと駆け寄ってくる。
「いやぁ……何だか球も取れねぇ自分が不甲斐なくなって……。すまねぇ、こんな所で泣くつもり無かったんだ」
さと子はハッとした。てっきり、さっきのエラーはぎりの助が同情してやってくれたものだとばかり思っていた。だが、彼も彼なりに必死にこの勝負に取り組んでいたのだ。自分の失敗ばかりに目を向けて、落ち込んでいた自分が情けなくなった。
「何言ってるの……私が1回も打てなかったくらいよ? つけ坊主の球が強すぎただけよ」
「だな。俺の球を1度でもキャッチ出来たお前は凄いんだぜ? 俺の草野球歴なめんなよ!!」
さと子とつけ坊主がニッコリと笑うと、ぎりの助は安心したのか、泣きながら笑った。それを見て、他の皆も温かく微笑んだ。
試合が終わると、さと子が作った料理以外の食べ物男子達は、手を振っていなくなった。ぎりの助もあれからこれからはもっと草野球を頑張ると意気込んでいた。食べ物男子達と野球を頑張るぎりの助の姿が目に浮かび、微笑ましい。さと子はニコニコと笑っていた。
「何じゃ、ニヤニヤしよって」
「ふふ。始めはどうなるかと思ったけど、案外野球も楽しかったなって」
「でしょうでしょう!? 流石、我等がさと子さんです」
カリー伯爵が何時にも増してグイグイ来るが、その気持ちも分からないことは無い。スポーツには、その試合の数だけ、汗や涙が入り混じっているのだろう。そして、そこがまた、この競技の良い所なのだから。
「カレーは野球のことになるとうるさいんだから。でも、楽しかったね。何だか、普段はあまり関わらない食べ物とも関われて、ぼくも良い経験を出来たよ」
「へぇ。じゃがくんってどんな料理にでも合いそうだけど、あまり関わらない子とかいるんだ?」
「うん。まぁ、にくじゃがだからね~漬物とかおひたしには合うけど、鍋とかと一緒に肉じゃが食べないでしょ?」
「確かに」
「なべ姉とはちょっと話したことはあったけど、あんなに精悍な人だったとはね。意外だったけど面白かった」
試合を思い返すと、今回のMVPは間違いなく彼だった。彼は、記憶に残るようなファインプレーを幾つもやってのけた。何より、あのスーさんの球を1発で打ち返したのは大きい。
「でも、本当に悔しかったなぁ。あともうちょっとでつけ坊主の球打ち返せた気がするのに~」
「何言ってんだ。目瞑ってるようじゃまだまだだよ。な?」
「ですね」
つけ坊主とカリー伯爵は、さと子を見ながらニヤニヤと笑った。
「何よもう~!」
ムッとするさと子を見て、神様が高笑いした。つられてじゃがくんも笑っていた。歩く5人の影は、夕日に姿を照らされて色濃く映っていた。
家へと戻り、さと子は風呂を上がると料理を頂くことにした。両手を合わせて、何時ものように、「いただきます!!」をする。カレーをかき込むと、まろやかな味が口全体に広がって言った。次に肉じゃがを食べる。これまた優しい味だ。どちらの料理にも芋が入っているので、お腹にもすぐ溜まって、ダイエットを志す者にとっては強い味方になってくれる。最後に、漬物を食べた。野菜に染みついた塩のしょっぱさが、先程の体の疲れをほぐしてくれるようであった。また、このしょっぱさが、少し涙の味と似ていて、感傷的な気持ちにもなる。きっと、あの時のぎりの助の涙はこのような味だったのだろうなぁと思うさと子。おにぎりの味付けも塩だしね。心の中で上手いこと言っていると、隣にいた神様がニヤリと笑った。
「今お前、上手いこと言ってドヤ顔したのう」
「う、うるひゃい!」
食べながらなのでつい変な口調になってしまった。かっかっかと笑う神様を無視し、水を飲んだ。全て食べ終えると、さと子は何時もの通りに両手を合わせる。
「ご馳走様でした」
「うむうむ。美味かったかの?」
「はい。やっぱり、和食も良いですね」
「そうじゃな。それじゃあ、ワシもそろそろ失礼するかの! 今回は非常に楽しかった!! 感謝する!!!」
神様は手を振り、即座にその姿を消した。全く、神出鬼没な人である。呆れながらも、さと子は微笑んだ。テレビを付けると、丁度スポーツ番組がやっており、カリー伯爵達と見ていた野球の試合のプレイバックをしていた。一度見たはずの試合なのに、再度釘づけになっている自分がおり、新聞を開くと、明日の試合の時間を調べていた。これは、次カリー伯爵に会った時にはネタが尽きなさそうだ。さと子は見事にカリー伯爵にしてやられたような気持ちであったが、すっかりと彼や、彼の大好きな野球の魅力にどっぷりとハマっていた。
――現在の体重、76キロ