グーグーダイエット
「ごめんなぁ」
「ぎりの助はのんびり屋さんで、ついつられちゃうんだよね。ずっとマイペースなのかなって思ってたけど、野球の試合の時、すっごく一生懸命な子なんだって分かって、良い子だなって思ったよ」
「いいやぁ、あの時はみんなの足引っ張ってぇ」
「ううん、全然。私の方が全く打てなかったし。また、野球したかったなぁ」
「ああ、俺もだぁ」
ぎりの助はにこっと笑ってその場から離れた。入れ替わりに漬物のつけ坊主がやって来ると、達海を見て、「おお~」と言う。
「全く良い男だぜ。俺もこんな素敵な人になりたいなぁ」
「その為にはまず髪の毛伸ばしたら?」
「だよなぁ」
さと子とつけ坊主が笑い飛ばした。達海も微笑ましそうに見つめている。
「野球の勝負だが、あれじゃあ全然駄目だな。相手にならないよ」
「何よもうっ! そりゃあ、男女の差とか、経験の差だってあるじゃない!!」
「そんなの言い訳だね。悔しかったら、俺とまた戦うことだな」
その瞬間、「あ」とさと子はつけ坊主の真意を察した。つけ坊主はウインクをする。つり上げていた眉を下げると、さと子は笑顔で、「おうよ!!」と、つけ坊主とハイタッチをした。ハイタッチ後、つけ坊主は流れのままに元の場所に戻っていき、まんじゅうの二の川さんがさと子の前に来た。
「こわ~いこわいまんじゅうが来ましたよ」
「うう、本当に怖いです。……なんちゃって。まんじゅう大好きですよ」
「おやおや告白かい? 嬉しいねぇ」
「違いますって。……二の川さん、あの時二の川さんが達海にちゃんと聞いてみろって言わなかったら、私こうして達海としっかり話せていなかったと思います。それどころか、達海のことずっと敵対視してたかも」
さと子は、達海に不信感を抱いていた時期を思い出す。あの時の自分は馬鹿だったなぁ。今になると恥ずかしい話だ。
「分かって良かったじゃないか。人間、話さないと分からないことばかりだ」
「うん!」
「お後が宜しいようで」
二の川さんは冗談っぽく言って去ると、神様の隣にいたラーメンのおっちゃんがニカッと笑う。
「俺が出るまでに、良~い仲間と出会ったな、お嬢ちゃん」
「うん! おっちゃんとももっと話したかったなぁ」
「全くだぞ? 昨日もう少し話させてくれても良かったじゃんか」
「まさか、こんなことになるなんて思って無かったから……」
おっちゃんはゲラゲラと笑い、「そりゃあそうだな」と言った。
「お嬢ちゃんのことは、コイツ等から聞いてたよ。会いたくて会いたくて仕方がなかった。俺以外の食べ物も、そう思ってたみたいだぞ」
「本当に? 会いたかったなぁ」
「そりゃあ出来ない! から、俺がちゃんと土産話として持っていってやるからな!! はっはっは!!!」
おっちゃんは手を振って後方に下がる。シメとばかりに神様がさと子の前に来ると、さと子の表情も引き締まった。
「神様、本当に有難う御座いました。神様のお陰でここまで痩せられたし、達海のことも理解出来ました、ダイエットする間も、神様やみんなとわやわや出来て楽しかったし」
「そうじゃろう? ワシのグーグーダイエットは凄いのじゃよ!!」
ほっほっほと笑う神様。なんだか可笑しくなり、さと子もつられて笑った。
「じゃが、このダイエットも良いことと悪いことがある。今まで、これを悪利用する者や、続かない者もたくさんおった。その中で真面目にダイエットをし、そして彼等とも友好を深めた。お前は素晴らしい体験者であった」
「いえいえ、そんな」
「別れるのはワシも惜しい! 暇を潰す相手が1人減るのじゃから!!」
「そんな理由かいっ!!」
期待通りのツッコミに、神様はまた笑った。
「じゃが、コレもこのダイエットのルールなのじゃ。辛いが、これでお別れじゃ」
「……うん」
「それじゃあさと子、達者でな!!」
神様の言葉を最後に、食べ物男子達はいなくなってしまった。さと子は妙に広いこの部屋に寂しさを覚えた。
さと子は振り返ると、達海の方を見る。
「達海……これからも、私を支えてくれる?」
「勿論。彼等の分までな」
「お願いね?」
2人は微笑み、その後も穏やかな時間を過ごした。
1年後、さと子は何時もの布団の上に寝転がって唸り声を上げていた。耳元にはスマートフォンを持ち、電波の向こうの達海と会話をしている。
『すまん、俺の親が無茶なことを言って……。でも、俺は親と関係を切っても良いと思っている』
「そんなの駄目よ! わ、私頑張るから!! もうちょっとだけ待って、ね?」
何とか達海を説得し、さと子はスマートフォンの電源を切った。その後、大きく溜息。
「達海の彼女にするには50キロ以下だなんて……どうしたら良いのー!!」
さと子は頭に手を当ててブンブンと首を振る。
達海がこのままでも良いと言っていたこともあり、最近は体重をキープするのが精一杯だった。幾ら健康的な生活をしていても、急にダイエットをするとなると、達海がいたとしても厳しいものがある。
こんな時、彼等がいれば……さと子は空しく天井を見上げた。
「呼んだかの?」
「……え?」
振り返ると、狭いマンションに神様と、今まで出会ってきた食べ物男子達がいた。
「仕方ないの~相手の親が50キロと言うなら此方も手を貸さねばならない。もう少しだけ、手伝ってやるぞ? さと子」
さと子は会いたかった皆の姿に、目をウルウルとさせる。勢い良く立ちあがると、神様に抱きついた。
「みんなーっ!!」
さと子の2回目のグーグーダイエットは、今始まったばかりである。
――現在の体重、65キロ
「ぎりの助はのんびり屋さんで、ついつられちゃうんだよね。ずっとマイペースなのかなって思ってたけど、野球の試合の時、すっごく一生懸命な子なんだって分かって、良い子だなって思ったよ」
「いいやぁ、あの時はみんなの足引っ張ってぇ」
「ううん、全然。私の方が全く打てなかったし。また、野球したかったなぁ」
「ああ、俺もだぁ」
ぎりの助はにこっと笑ってその場から離れた。入れ替わりに漬物のつけ坊主がやって来ると、達海を見て、「おお~」と言う。
「全く良い男だぜ。俺もこんな素敵な人になりたいなぁ」
「その為にはまず髪の毛伸ばしたら?」
「だよなぁ」
さと子とつけ坊主が笑い飛ばした。達海も微笑ましそうに見つめている。
「野球の勝負だが、あれじゃあ全然駄目だな。相手にならないよ」
「何よもうっ! そりゃあ、男女の差とか、経験の差だってあるじゃない!!」
「そんなの言い訳だね。悔しかったら、俺とまた戦うことだな」
その瞬間、「あ」とさと子はつけ坊主の真意を察した。つけ坊主はウインクをする。つり上げていた眉を下げると、さと子は笑顔で、「おうよ!!」と、つけ坊主とハイタッチをした。ハイタッチ後、つけ坊主は流れのままに元の場所に戻っていき、まんじゅうの二の川さんがさと子の前に来た。
「こわ~いこわいまんじゅうが来ましたよ」
「うう、本当に怖いです。……なんちゃって。まんじゅう大好きですよ」
「おやおや告白かい? 嬉しいねぇ」
「違いますって。……二の川さん、あの時二の川さんが達海にちゃんと聞いてみろって言わなかったら、私こうして達海としっかり話せていなかったと思います。それどころか、達海のことずっと敵対視してたかも」
さと子は、達海に不信感を抱いていた時期を思い出す。あの時の自分は馬鹿だったなぁ。今になると恥ずかしい話だ。
「分かって良かったじゃないか。人間、話さないと分からないことばかりだ」
「うん!」
「お後が宜しいようで」
二の川さんは冗談っぽく言って去ると、神様の隣にいたラーメンのおっちゃんがニカッと笑う。
「俺が出るまでに、良~い仲間と出会ったな、お嬢ちゃん」
「うん! おっちゃんとももっと話したかったなぁ」
「全くだぞ? 昨日もう少し話させてくれても良かったじゃんか」
「まさか、こんなことになるなんて思って無かったから……」
おっちゃんはゲラゲラと笑い、「そりゃあそうだな」と言った。
「お嬢ちゃんのことは、コイツ等から聞いてたよ。会いたくて会いたくて仕方がなかった。俺以外の食べ物も、そう思ってたみたいだぞ」
「本当に? 会いたかったなぁ」
「そりゃあ出来ない! から、俺がちゃんと土産話として持っていってやるからな!! はっはっは!!!」
おっちゃんは手を振って後方に下がる。シメとばかりに神様がさと子の前に来ると、さと子の表情も引き締まった。
「神様、本当に有難う御座いました。神様のお陰でここまで痩せられたし、達海のことも理解出来ました、ダイエットする間も、神様やみんなとわやわや出来て楽しかったし」
「そうじゃろう? ワシのグーグーダイエットは凄いのじゃよ!!」
ほっほっほと笑う神様。なんだか可笑しくなり、さと子もつられて笑った。
「じゃが、このダイエットも良いことと悪いことがある。今まで、これを悪利用する者や、続かない者もたくさんおった。その中で真面目にダイエットをし、そして彼等とも友好を深めた。お前は素晴らしい体験者であった」
「いえいえ、そんな」
「別れるのはワシも惜しい! 暇を潰す相手が1人減るのじゃから!!」
「そんな理由かいっ!!」
期待通りのツッコミに、神様はまた笑った。
「じゃが、コレもこのダイエットのルールなのじゃ。辛いが、これでお別れじゃ」
「……うん」
「それじゃあさと子、達者でな!!」
神様の言葉を最後に、食べ物男子達はいなくなってしまった。さと子は妙に広いこの部屋に寂しさを覚えた。
さと子は振り返ると、達海の方を見る。
「達海……これからも、私を支えてくれる?」
「勿論。彼等の分までな」
「お願いね?」
2人は微笑み、その後も穏やかな時間を過ごした。
1年後、さと子は何時もの布団の上に寝転がって唸り声を上げていた。耳元にはスマートフォンを持ち、電波の向こうの達海と会話をしている。
『すまん、俺の親が無茶なことを言って……。でも、俺は親と関係を切っても良いと思っている』
「そんなの駄目よ! わ、私頑張るから!! もうちょっとだけ待って、ね?」
何とか達海を説得し、さと子はスマートフォンの電源を切った。その後、大きく溜息。
「達海の彼女にするには50キロ以下だなんて……どうしたら良いのー!!」
さと子は頭に手を当ててブンブンと首を振る。
達海がこのままでも良いと言っていたこともあり、最近は体重をキープするのが精一杯だった。幾ら健康的な生活をしていても、急にダイエットをするとなると、達海がいたとしても厳しいものがある。
こんな時、彼等がいれば……さと子は空しく天井を見上げた。
「呼んだかの?」
「……え?」
振り返ると、狭いマンションに神様と、今まで出会ってきた食べ物男子達がいた。
「仕方ないの~相手の親が50キロと言うなら此方も手を貸さねばならない。もう少しだけ、手伝ってやるぞ? さと子」
さと子は会いたかった皆の姿に、目をウルウルとさせる。勢い良く立ちあがると、神様に抱きついた。
「みんなーっ!!」
さと子の2回目のグーグーダイエットは、今始まったばかりである。
――現在の体重、65キロ