絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ
1月6日 思い出せない過去の失態
1月6日
何故、どうして私は巽という人を選んだのだろう。
どうやって知り合ったのか。
どのように5年を過ごしてきたのか……。
事故のその日は、その人のマンションで私は何をしていたのだろう。
一緒に寝たのだろうか。
仲は良かったのだろうか。
ではなぜ私は階段で下に下りようとしたのだろう……。
この辺りを考えるとすぐに頭痛が酷くなる。
目を閉じて上をむき、大きく息を吐く。
何も考えてはいけない。
頭痛などしない。
気のせいだ。
しかし、そう思えば思うほど頭痛が酷い気がして横になり、寝返りを打つ。
「気分転換にはテレビがもってこいだ」
そう榊が言っていたことを思い出してテレビをつけた。
テレビは5年のブランクをあまり感じさせず、心地よくしてくれる……
「あ」
そうだ。何故今まで思い出さなかったんだろう。私はガクトとルームシェアをしていた。そうだ。実家でいたんじゃない。ユーリに声をかけられて、3人で一緒に過ごしていたではないか。
じゃあ何故見舞いに来ないのだろう。
忙しいのだろうか。芸能人だから。
ようやく携帯を手に取る気になったが辺りにはない。
実家にあるのかもしれない。夕方に母が来ると言っていたから、その時話そう。
コンコン。
「はい」
榊ではない。今日は会議があると言っていた。ナースだろうか。
「こんにちは。大丈夫ですか、香月さん」
…………。
全く誰だか思い出せない。
若くて上品でキレイな人だが、全く見覚えがない。
手には上等そうな花束を持っていて、尚更馴染の気がしない。
「どうぞ。お見舞いです、良かったらお部屋に飾って下さい。花瓶はあります?」
本社の人……かもしれない、雰囲気がそうだ。
「え……どうでしょう……」
見渡したが、辺りにはない。
「じゃあとりあえずここの棚の上にでも置いておきます。また後で生けて下さいね」
「あ、ありがとうございます」
でも、このまま……知らん顔することはできない。
「あの……」
香月は女性が椅子に腰かけるなり、先に切り出した。
「あの、その……。信じられないかもしれませんがその、私は記憶がなくてですね……」
言った途端、悲しくなって言葉に詰まった。
「一応聞いては来ましたが、本当みたいですね。私のことも全然覚えてらっしゃらないの?」
そんな喋り方をする人なんて、知る筈がない。
「……すみません……。最近会った方なのでしょう……か……」
その質問が失礼にあたるかどうか考えながら喋る。
「そうですね。クリスマスにお会いしました。信じられないクリスマスでした。けどそれも、覚えていないのね」
なんだか知らないが、口調がきつくなり、とても怒っていることが伝わってくる。
どうしよう。私、何かしたのかもしれない。
けど、それが何なのか、なんだったのか……。
思い出そうとしても、頭痛がしそうで怖くて……。
「四対さんと私と、巽さんで食事行ったことも覚えていないのね?」
「…………」
首を横にかしげることしかできない。だが、登場人物だけはとりあえず分かったので幸いだ。
しかし、4人で食事に行くとは……私はこの女の人とどんな知り合いだったのだろう……。
「あの、名前を……」
名前を聞けば思い出すかもしれない。
「あなたの名前を教えてもらってもいいですか?」
女性は一度目を閉じると、そのままで
「烏丸萌絵です」
と、小さく答えた。
からすま……。周囲にはいない苗字だ。学生時代の知り合いではないことはすぐに分かった。
「全然分からないのですか? ちょっともう、私は腹が立って仕方ないのですけれど!」
空気が更に悪化していく。
「す、すみません、ほんとに私、何も分からなくて。でも、すみません、本当にごめんなさい」
怒っている相手を沈めるには、とにかく最初の謝罪の言葉が重要だ。それは、本当にこちらが悪くても悪くなくても必要だということは、エレクトロニクスに入ってから学んだ。
「私は許す気はありません! 何も知らずにいるあなたに本当に腹が立ちます! 私の人生がどれだけ狂わされたか!!」
クリスマスに一体何があったというのか!?
私は一体どんな酷いことをしたのか!? まさか、人でも殺したのだろうか!? どうしよう、一体どんな取り返しのつかない事を……。
「すみません!! 本当にすみません……!!」
ただ本人に内容を聞く勇気はなく、ベッドの上で座りながらではあるが、精一杯頭を下げた。
頭痛はずっと前から酷い。でも今はそんな場合ではなかった。
「巽さんに、二度と近づかないでください!!!」
えっ?
それって一体どういう……。
顔を上げて、烏丸を見た。相手は本気だ。目を合せる余裕すらない。
「巽さんと付き合いがらも、私から四対さんを奪ったんですよ。クリスマスの日に。公共の場で信じられない!! どちらも得ようとするからそんな目に遭ったんですよ! 自業自得です! オーストラリアだって、自分から旅行に行こうだなんて言いだして、結局は2人と一緒に行きたかっただけでしょ? 私をダシに使ってるだけじゃないですか!! いつもそう!! 食事する度に、会う度にそれを感じるわ!! 自分がちょっとキレイだからって、周りがどうとでもなると思ってるのよ!! 」
頭痛がひどすぎて、烏丸が何を言っているのかあまりよく分からなくなってきた。ただ、棚の上に置かれた花がとても美しくて。
烏丸萌絵という人は私の身体を気遣いながらも、私の過ちに怒っているのだということは充分理解できた。
どうせ私のことだから、何とも思わずに色々やらかしてしまつたんだろう。
そうに違いない。
「本当にすみません……」
私は、何度か目の謝罪をして頭を深く下げた。できることは、それしかない。
「本当腹が立つ!!!」
それが、彼女の心には全く響かなかったのか。
彼女はこちらが頭を上げる前に、早々と扉を開け、外へと出て行った。
何故、どうして私は巽という人を選んだのだろう。
どうやって知り合ったのか。
どのように5年を過ごしてきたのか……。
事故のその日は、その人のマンションで私は何をしていたのだろう。
一緒に寝たのだろうか。
仲は良かったのだろうか。
ではなぜ私は階段で下に下りようとしたのだろう……。
この辺りを考えるとすぐに頭痛が酷くなる。
目を閉じて上をむき、大きく息を吐く。
何も考えてはいけない。
頭痛などしない。
気のせいだ。
しかし、そう思えば思うほど頭痛が酷い気がして横になり、寝返りを打つ。
「気分転換にはテレビがもってこいだ」
そう榊が言っていたことを思い出してテレビをつけた。
テレビは5年のブランクをあまり感じさせず、心地よくしてくれる……
「あ」
そうだ。何故今まで思い出さなかったんだろう。私はガクトとルームシェアをしていた。そうだ。実家でいたんじゃない。ユーリに声をかけられて、3人で一緒に過ごしていたではないか。
じゃあ何故見舞いに来ないのだろう。
忙しいのだろうか。芸能人だから。
ようやく携帯を手に取る気になったが辺りにはない。
実家にあるのかもしれない。夕方に母が来ると言っていたから、その時話そう。
コンコン。
「はい」
榊ではない。今日は会議があると言っていた。ナースだろうか。
「こんにちは。大丈夫ですか、香月さん」
…………。
全く誰だか思い出せない。
若くて上品でキレイな人だが、全く見覚えがない。
手には上等そうな花束を持っていて、尚更馴染の気がしない。
「どうぞ。お見舞いです、良かったらお部屋に飾って下さい。花瓶はあります?」
本社の人……かもしれない、雰囲気がそうだ。
「え……どうでしょう……」
見渡したが、辺りにはない。
「じゃあとりあえずここの棚の上にでも置いておきます。また後で生けて下さいね」
「あ、ありがとうございます」
でも、このまま……知らん顔することはできない。
「あの……」
香月は女性が椅子に腰かけるなり、先に切り出した。
「あの、その……。信じられないかもしれませんがその、私は記憶がなくてですね……」
言った途端、悲しくなって言葉に詰まった。
「一応聞いては来ましたが、本当みたいですね。私のことも全然覚えてらっしゃらないの?」
そんな喋り方をする人なんて、知る筈がない。
「……すみません……。最近会った方なのでしょう……か……」
その質問が失礼にあたるかどうか考えながら喋る。
「そうですね。クリスマスにお会いしました。信じられないクリスマスでした。けどそれも、覚えていないのね」
なんだか知らないが、口調がきつくなり、とても怒っていることが伝わってくる。
どうしよう。私、何かしたのかもしれない。
けど、それが何なのか、なんだったのか……。
思い出そうとしても、頭痛がしそうで怖くて……。
「四対さんと私と、巽さんで食事行ったことも覚えていないのね?」
「…………」
首を横にかしげることしかできない。だが、登場人物だけはとりあえず分かったので幸いだ。
しかし、4人で食事に行くとは……私はこの女の人とどんな知り合いだったのだろう……。
「あの、名前を……」
名前を聞けば思い出すかもしれない。
「あなたの名前を教えてもらってもいいですか?」
女性は一度目を閉じると、そのままで
「烏丸萌絵です」
と、小さく答えた。
からすま……。周囲にはいない苗字だ。学生時代の知り合いではないことはすぐに分かった。
「全然分からないのですか? ちょっともう、私は腹が立って仕方ないのですけれど!」
空気が更に悪化していく。
「す、すみません、ほんとに私、何も分からなくて。でも、すみません、本当にごめんなさい」
怒っている相手を沈めるには、とにかく最初の謝罪の言葉が重要だ。それは、本当にこちらが悪くても悪くなくても必要だということは、エレクトロニクスに入ってから学んだ。
「私は許す気はありません! 何も知らずにいるあなたに本当に腹が立ちます! 私の人生がどれだけ狂わされたか!!」
クリスマスに一体何があったというのか!?
私は一体どんな酷いことをしたのか!? まさか、人でも殺したのだろうか!? どうしよう、一体どんな取り返しのつかない事を……。
「すみません!! 本当にすみません……!!」
ただ本人に内容を聞く勇気はなく、ベッドの上で座りながらではあるが、精一杯頭を下げた。
頭痛はずっと前から酷い。でも今はそんな場合ではなかった。
「巽さんに、二度と近づかないでください!!!」
えっ?
それって一体どういう……。
顔を上げて、烏丸を見た。相手は本気だ。目を合せる余裕すらない。
「巽さんと付き合いがらも、私から四対さんを奪ったんですよ。クリスマスの日に。公共の場で信じられない!! どちらも得ようとするからそんな目に遭ったんですよ! 自業自得です! オーストラリアだって、自分から旅行に行こうだなんて言いだして、結局は2人と一緒に行きたかっただけでしょ? 私をダシに使ってるだけじゃないですか!! いつもそう!! 食事する度に、会う度にそれを感じるわ!! 自分がちょっとキレイだからって、周りがどうとでもなると思ってるのよ!! 」
頭痛がひどすぎて、烏丸が何を言っているのかあまりよく分からなくなってきた。ただ、棚の上に置かれた花がとても美しくて。
烏丸萌絵という人は私の身体を気遣いながらも、私の過ちに怒っているのだということは充分理解できた。
どうせ私のことだから、何とも思わずに色々やらかしてしまつたんだろう。
そうに違いない。
「本当にすみません……」
私は、何度か目の謝罪をして頭を深く下げた。できることは、それしかない。
「本当腹が立つ!!!」
それが、彼女の心には全く響かなかったのか。
彼女はこちらが頭を上げる前に、早々と扉を開け、外へと出て行った。