絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ
「あら? あれ、おーい、香月さん?」

 呼ばれて初めて、自分が眠っていたことを知った。

「…………」

「暑かったんですか? 布団も被らずに」

 ナースは笑いながら、棚の花に気付き

「あら、綺麗ですねー。うーん、いい匂い。花瓶持って来てもらわないといけないですねえ」

「…………」

 花……夢じゃないんだ……あの女の人が来た事……。

「花……そのままだと枯れますよね……」

 話すことがなくなったので聞いた。

「うーん、延命剤使ってるでしょうから少しなら大丈夫だろうけど、でも早めに生けた方がいいわね」

 何がなんだか……。

 つまり私は、巽という人と付き合っていて、結婚を前提にしている上で、四対という人を公共の場で奪った。しかも、四対は烏丸萌絵と付き合っているというのに。しかも、烏丸と私は友達だったのだろう。あんな綺麗な花を持ってくるくらいだから。

 だから怒ったのだろう……。

 しかも、2人とも早々に見舞いに来たことで、烏丸の逆鱗に触れたのかもしれない。
 
でも、クリスマスに公共の場所って。目の前でキスでもしたのだろうか。

 そんな馬鹿な……。

 でも、だとしたら、巽に二度と会わないでというのは一体どういう意味だろう。

 四対に会わないことは当然とした上で、巽にも会うなということだろうか。

 巽が結婚を前提にしているということに嫉妬しているのだろうか……。

 思い出そうとしても、何も思い出せず、それどころか益々謎が深まるばかりだ。

 携帯があれば……何か分かっただろうか。

 一応夕方に母には頼んだが、早くても明日の朝になる。

 でも、それが分かってどうにかすることができるのだろうか……。
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