絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ
2月2日

 家電売り場を含む5階建てのリバティは、それぞれの階に家具、家電、被服、日用品、食品部を設け、1人ずつサブマネージャーが在籍する。

 そして、その5人の補佐をするマネージャー補佐役の山瀬(やませ)は、出社日は店の鍵を8時に開けるのが役目として与えられている。

 急ぎの仕事がある時は、8時10分くらいに到着するように心がけている香月は、腕時計が8時12分であることと、駐車場の車の台数が合わないことに、すぐに計算を走らせた。

 自分の車を入れて3台。1台は見慣れない高級外車だ。ということは、幹部の可能性が高い。

 改めて、紺のブレザースーツの服装を確認し直す。スカーフの寄れ、靴の汚れはない。

 食品部のサブチーフになって1か月、今日も大丈夫なはずだ。確認してから、自車であるフォルクスワーゲンから出る。

 今頃、山瀬と幹部の2人が話をしているんだろうなと思って事務室の中へ入ると、案の定談笑していた。

「おはようございます」

 見たことはない。制服を着ていないので、本社の人間だろうが、これが制服だったとしても、現場とは絶対に違う独特な雰囲気を持っている。

 180はありそうな身長と、セルフレームの黒縁メガネがとても印象的な知的そうな男性だ。

「初めまして、勝己です。南エリアマネージャーです」

 やっぱり本社の人間だ。しかし、エリア違いということは、視察か、監査か。

「今日は見学だけして帰ります。お気になさらず」

 笑うので、

「お疲れ様です。私は香月と申します。食品のサブチーフです」

と、こちらも笑顔を向ける他ない。

「ところで質問ですが、エレクトロニクスとリバティ、家電部だけで考えるとどちらが有利だと思いますか?」

 一瞬目を見開いた。だが、随分攻撃的な言い方に思えたので、すぐに答えた。

「リバティです。値段と商品数、ニーズが多層に合致しています」

「エレクトロニクスのような裕福層狙いというのはどうですか?」

「今考えると一番やりやすい方法だと思います。ロスも少ない、トラブルも少ない。けど、その最小のロスや大きなトラブルがない分、他の課題点はたくさんあるように思います」

 最後は無難に終えたいと思っていたが、つい持論を展開してしまったので、様子伺いに上目遣いで勝己を見る。

「なるほど。…時間があるのなら、今から少し売り場を案内してほしいのですが」

 突然の個人的なお願いに、香月は無表情にならざるを得なかった。そんな時間のために、早く来たんじゃない。

「すみませんが、今日はしなければいけないことがあるのです」

「なんですか、それは」

 仕事に決まっている、と思いながら、平常心を装って答える。

「えっと……色々……昨日から溜まっていることとか。今日はメールも多いと思うので……」

「予想でこれほど早く出社した、ということですか?」

「ではないですが」

 話しながら、パソコンに手を触れて動きを開始させておく。

 宮下から予算を組み直して再送信される情報を得たので早く来たが、安易にそれは言わない方がいいのかもしれない。

 パソコンの画面が立ち上がると同時に未読メールの件数が表示される。

 おそらく、メールの件数からすると、予算のメールは来ている。こんなところで談笑をしている場合ではない。

「シフトの見直しをしたいと考えていて…というところです」

 勝己がこの場から出ないことには作業を始められない。

「すみませんが、誰か他の人でお願いします」

 言った後、その勝己の無表情を見て後悔する。いや、この場合は上司に従うべきだったのだ。エレクトロニクスのぬるい湯に浸かっていたいたせいで、縦社会がゆるくなりすぎている。

 ハッと気づいた時にはすでに、勝己はドアの外へ出た後だった。





 昼前、何度か勝己を見かけたが、知らんふりしてやりすごした。事実、用はない。朝は朝で予算のことで忙しかったし、それに第一宮下から情報を得たことを隠しとおさねばならない。

 そうこうしているうちに15時になる。ようやく休憩しようかという時、再び勝己と出くわした。

「朝はすみませんでした」

 そういわなければならない状況、運よく、廊下には誰もいない。

「8時から10時までは予算の組み直しを元にシフト変更をしていたんじゃありませんか?」

 さすがだ。見破られている。

「……」

 目はしっかりと、こちらを見ている。耐え切れずに目を逸らした。

「はい、予算の上乗せのメールがきていたので」

 それは、朝見れば誰だって分かる。

「たまたまですか?」

「たまたまです」

「何がたまたまなんですか?」

 ………、目を閉じて、覚悟を決めた。

「あらかじめ、本社から上乗せのメールが行くという情報をもらっても、なんら不思議ではありません。別に悪いことでもありません」

「……」

 そうだったのかと安堵したと同時に、嘘をついていたことへの罪悪感でいっぱいになる。

「香月サブチーフがどこから情報を得たのかということも、もちろん想像つきます。だから、私がこれから申し上げることも、知っているかもしれません」

「……何でしょう」

 数々の宮下から得た情報が頭を巡ったが、どれもヒットしない。

 後ろから人が来たので、黙るかと思いきや、

「マネージャールームを案内してください」

と言いつつ、5階のその方向へ自ら進んでいる。

 香月は遅れて方向転換した。

「須藤マネージャーも呼びます。部屋にいるかな。分かる?」

 少し振り返って聞いてくる。

「いえ」

 怖すぎて、顔を見れない。

 そのまま部屋に着く。ドアをノックすると中から声が聞こえた。どうやら呼ぶ手間は省けたようだ。

「はい……」

 2人が入ってきたことに、違和感を隠せない須藤は、長机の上に広げたパソコンや資料をそのままにすぐに立ち上がり、勝己の前に立った。

 だが、須藤の質問より早く、

「椎名と木岡を呼んでほしい。全員来るまで待つよ」

 須藤は今しがた自分が座っていた上座の椅子にかける勝己を後目に、腕時計を見た。15時10分、そして、一時停止。

「香月、食事は?」

「まだですが、平気です。ご一緒します」

 と、立ち尽くす。

「まあ、座ったら?」

 と、勝己が左隣のパイプ椅子を引いてくれたので、

「ありがとうございます」

と、席順どうこうごちゃごちゃ考えずに素直にそこに腰かけた。

 須藤は急いで勝己の前の、散らかされた資料を素早く片付けていく。

「これ、結婚指輪。オーダーメイドなんだけどね」

 意外にも世間話をもちかけてくる。指輪はなんのことない、シンプルな物だったが慌てて、

「素敵ですね」

「デザインは色々考えに考えたんだけど、その傑作がこれ」

 どう見ても、シンプルなプラチナの輪っかがはまったただの左手だ。何が傑作なのか分からないほど、普通のリングである。

「妻のは色々飾ったんだが。私は私なりに凝ったつもりなんだが、凝りすぎると逆にシンプルになるもんなんだね」

「そうかもしれないですね」

 そんな経験一度もないので、相槌程度にとどめておく。

 さて、静かに溜息を吐いて、話しかけられないよう、前を向く。

 椎名という女性サブマネージャーは男性社会の中の若い女性で、キレ者と噂なのでよく目立って知っている。木岡も現直属の上司だ。

 このメンツでまさか、予算の話ではない。須藤も慌ててふためいたせいか、結局廊下で収集をかけているようだし……。

 まさか、情報漏洩とか……?

宮下に色々聞きすぎてしまっていて、それを私が漏らしただろうか。記憶には全くないが、情報を知っているだけにそういう動きになってしまう時もよくある。

 宮下も、私らなら何も言わないと鷹をくくっていただろうし……だとしたら、今日の朝、勝己とうまく話ができなかったのは、実に痛い。いや、ひょっとして、そのことを承知の上で、監査に来ていたか……。

「今日は昼は何を食べるつもりだったの?」

 再び話しかけられて、そちらに集中する。

「えーと、一括注文のお弁当です」

「あぁ。うまいの?ここのは。本社の食堂のはうまいらしいけど」

 らしい、ということはいつも愛妻弁当だという前振りだ。

「ええまあ、まあまあですね」

 程度でとどめておく。こちらは入社してからは実家を出て1人暮らしで弁当どころか、碌に料理などしていないし、比べられるようなものではない。

「……椎名とはよく話す?」

「え、いえ…。挨拶程度です」

「知ってる? 入社してすぐ修理チーフになって、サブマネまで昇りつめたのに、修理の平になって、返り咲いたの」

「え、あ、そうだったんですか……そういうことは、何も」

「どう思う?」

 って、いくら誰もいないといえど、そんな他の社員のことを……。

「……努力家なんですかね……、その一度平になった背景が分からないから難しいですけど」

「うん、そうだね。…木岡はどう?」

 その、曖昧などう? はやめてほしい。

「そうですね……」

 なんとも答えづらい。

「彼はね、元々は輸入会社のバイヤーだけど、人と話をするのが上手だろ? あれは間近でいると、実に参考になる」

 確かに、社員教育の仕方は見事だ。輸入会社のバイヤーの新人教育でもしていたのだろうか。だだとしたら、納得がいく。

 ノックの音が聞こえた。

「お待たせ、しました……」

 先に来た椎名は、不安気な顔を隠したつもりだろうが、勝己の顔を見た瞬間、うまく成功はしなかった。

「いや、早かったね。今木岡君を待ってるところ、そこどうぞ」

 勧められるがままに、椎名は勝己の前に腰をかける。

「君も」

 まるで存在感がなくなった須藤だったが、それでも何かを悟ったように、落ち着いて勝己の隣に直角になるよう、腰かけた。

「木岡、まだかかるかな」

「電話中だそうで。終わり次第来ます」

「そうか……。ところでみんな、今年のお盆の予定はある?」

「仕事です」

 椎名が即答した。

 まだ2月半ばなのにも関わらず、半年も先の予定を聞いてくるなんて尋常ではない、と予想した香月は、黙っておく。

「そうだろうなあ。私もそうだと思う。だけど、お盆明けなら連休を取っても許されるだろうとは思ってる。だから、8月末くらいに海外を考えていてね」

 急に海外に行きたくなる。行くとしたら……巽と一緒……だろうか。

 職場を変えてからは、仕事に打ち込み始めたので、頻繁に会ってはいないし、連絡も控えめになっているので、すぐ妄想には結びつかない。

「家族旅行ですか」

 須藤が間髪空けずに、話題を盛り上げた。

「まあ、そうかな。うまくいけばいいけど。香月は休みの日は?」

 まさか、振られるとは思っていなかったので、

「えっと、何も考えてはいませんでしたけど……海外には行きたいですね」

「なるほど」

 何がなるほどなのかと、それぞれ思いながらドアの音にハッとする。

 一同の視線が木岡に移った。

「お、遅れてすみません」

 驚いた顔だ。それも当然だろう。

「そこ、どうぞ」

 椎名の隣、ともちろん仕切るのは勝己だ。それに、木岡も従う。

「今、お盆の後の予定なんかを話ていてね、木岡は何かある?」

「お盆?……今年のですか?」

 当然の返しだ。本人も驚く顔を特に隠してはいない。

「そう。まだ今年になったばかりだけどね」

「いえ……特には」

 警戒して答えている。当然だ。

「そうか……8月末、9月始めなら休みが取れると思う。ただし、それ以前の連休は少し難しいかもしれない。

 なぜなら、来月からここを増設するからだ」

「え?」

 声が出たのは香月だけだった、しかも、勝己と目が合ってしまう。

 椎名は目を真ん丸にして、須藤を見ている。

 木岡は軽く口が開いたままテーブルの先を見ていた。

 微動だにしなかったのは、須藤だけだった。

「この北エリア北店、S級の店をSS級に上げる。集客力増大を狙うのが目的だ。渡り通路を作って、もう一つ建物を作る。そこを、家電と家具専用にする。空いた今のスペースは、貴金属、被服、雑貨のコーナーを増やす。

 それだけでは足りない。一番重要なのは、社員教育だ。従業員の質をも同時に上げることが求められる」

 そこで一旦区切り、沈黙ができた間に、将来図が見えた。香月は勝己をもう一度見た。するとすぐに目が合う。

「何か意見が?」

「いえ」

 短く答える。しかし、目は逸らさなかった。まだ質問するほどの情報がない。

「……そこで。内示だが人事の発表だ。今日ここに私が来たのはこの5人のシフトを確認済のう上で来ている。細かく言えば、増員も合わせて50人近く変わる。だが主要で変更のあるところだけ、今日は発表する」

 予算のメールの事や、情報漏洩ではない、まさか自らの人事の話になるとは思いもよらず、勝己の横顔を見つめた。

「須藤……顔が怖いぞ」

 須藤は顔を崩そうとしたが、失敗した。しかも、声を出せるほどの余裕はなかったとみえる。

「ストアマネージャーは私だ。ここをSS級ランクの店として成り立たせる命を受けてエリアマネージャーを抜けて来ることになっている」

 須藤は微動だにしない。言われて気が付く。人事の変更と言った時点で、須藤はここのマネージャーではなくなっていたのだ。

「須藤は被服兼雑貨のサブマネージャー」

「はい」

 返事は一つしかない。

「木岡は、家具のチーフ」

「はい」

 打倒なところだ。

「椎名は、家電のチーフ」

「……はい」

 噛み締めたような声だった。

「香月は倉庫チーフ」

「えっ」

 返事が出なかった。

「返事は?」

 勝己は笑っている。

「、、はい」

 何で倉庫のチーフ……。しかも、チーフ!? まだ日用品のサブチーフになったばかりなのに、倉庫のチーフって……。

「今この店で弱いのは、被服関係だ。そこに須藤を当てて、積極的に攻める。

 木岡は今までの経験で得た知識を家具で生かしてほしい。家具にはインテリア雑貨も加える予定だ。

 それ以外の雑貨は雑貨で、4階にコーナーを作る予定だ。同時に渡り通路は4階に作る。その下は駐車場で、その上が家電だ」

 輸入会社って、本当に家具だったのか……。

「はい」

 木岡は落ち着いている。まあ、元々そういう条件だったのかもしれない。

「巽には、このリバティの倉庫を変えるシステムの構築を鳴丘と、修理システムの提案を春野と進めていってほしい。

 宮下部長と香月は特別だ。2人にしか持ち得ていないものがある、それを存分に生かしてほしい」

「………」

 確かに、エレクトロニクスの物流システムはリバティに比べればよくできている。だがしかし、それを今言われると、裏切り者みたいで、居づらくなる。

「朝のことも、私的には大いに関心しているよ」

 まさか、ここで宮下の名前を出すのは!!!

 大きく目を見開いて勝己にけん制する。

 勝己はメガネの下でいたずらに笑うと、ふっと目を逸らした。やられっぱなしだ。

「椎名は初の試みだろうが、家電のチーフとしてやってもらう。もちろん今までの活躍は全てわかっている。しかし、それは他の新サブマネには劣ると考えてる。

 以上だ」

「………」

 誰も動こうとはしない。

「解散」

 もう一度勝己が言うと、木岡が一番に動いた。次に、香月が動こうとすると、

「随分驚いていたね」

 勝己は立ち上がりながら笑って言った。

「……はい……」

 あまり、無駄口をたたくと、逆にやられかねない。

「だが、当然の流れだ。香月は倉庫のノウハウに詳しい」

「自分では感じたとことはなかったですが」

「本当に? ここの物流システムが素晴らしいと思ってる?」

 それはおそらく宮下が漏らしたんだろう……と信じたい。

 勝己はまだ座ったままの椎名を見下して言った。

「椎名、家電部門を頼むよ。それはお前にしかできないから」

「……」

 泣いているのかもしれない。

「納得いかない事があるのなら、何時間でも説明するよ」

 と、言いながら外へ出ようとして振り返り、あとに続こうとした香月を見た。

「昼食の弁当、とったんだっけ?」

「え、あ、…私名前書いてなかったかも……。食品コーナー行きます」

 そんな時間ないかも、と思いながら時計を見た。

「お金持ってる?」

「え、あります。それは忘れてないです」

「じゃあ、ラーメン行くか」

「…………」

 え、このタイミングで一緒に!? しかも今からラーメン……私、まだ仕事なんですが。

「プハハハハハ、随分嫌そうな顔だな。でも、ラーメンは確かに嫌だな。うん。……何がいいかな……。まあ、タイミングが合ったから一緒にランチ行こう。奢らないけど」

 いや、私は食品コーナーでいいんですが。


結局半ば強引にランチに連れて来られた。店から歩いてすぐそこのカフェ。着くと既に16時ですいていた。

 それぞれ注文をし、待ち、食べる間も勝己は自分のことを延々と喋り続けた。

 奥さんとは4年前に社内結婚して、スピーチは吉村副社長しにしてもらったとか、息子は今3歳でインターナショナルスクールに通わせているとか。今年からは奥さんが職場に復帰して南エリアでパートで働いているとか。手料理は味噌汁とつけ物がおいしいとか、弁当は忙しくない時だけ作ってくれてるとか。

 食べているということもあり、会話としてはあまり続かなかったが、勝己のことはだいたい分かった。

 北エリアの店で働き始めると単身赴任になるが、それは避けたいので、買った家をどうするか考えているということまで。

 意外に生活感のある生活をしているようだ。

 こちらのことも聞き返して来ないのも助かった。5年の記憶喪失のことは、入社時に説明しているので、そのことも承知済みだろう。

 まあ、会計が別々だからあまり気を遣わなくてもいいかとも思った。タイミングが合っただけけ、だから上司の話をこれみよがしに盛り上げるなど、必要はない。

 と、思っていたのにも関わらず、いざ会計となり、レジの前に立つと、既に支払われていると店員に言われ、焦って既に外に出ていた勝己を追った。

 考えれば、一度トイレに席を立っている。あの時に既に支払ったに違いなかった。用意周到この上ない。

 ひとしきりお礼を述べて歩き出す。店はすぐそこだ。

「朝の話に戻るけど、予算の話を宮下部長から聞いて、8時に来たんだね」

「すみません」

 三度蒸し返すのかと、腹が立ったが、謝るしかない。

「ん? いや、それは何も悪いことじゃない。部長からの気遣いだよ。そうか早く出社してやれって連絡かもしれないし」

「すみません……」

 『聞いてはいけない話かもしれないと思ったので』、と付け足すと、色々ややこしくなってしまう。

「だから売り場案内を断ったんだね」

「はい、予算が先だと思ったので、すみませんでした」

「でも、人事のことは聞いてなかったようだね」

「はい、全く」

 ここで、この質問もおかしいなと思ったが、全くと言い切った。人事の話を他言するのもちろんご法度だ。それは香月にも充分分かっている。

「宮下部長は香月のことをよく理解してくれているんだね」

「そうかもしれません」

「倉庫、驚いたと思うけど、鳴丘がいづれ異動するだろうからそれまでにどうにしかたいと思って」

「……そうなんですか」

 ……それってどういう……。

「鳴丘の話はナイショね」

「はい」

 となると、サブマネが変わった時のためにチーフがしっかりしておかなければならないという前振りだ。

 勝己に聞こえないように溜息をつきたかったが、どうも見破られそうでやめた。全く侮れない人物だ。
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