絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ
携帯電話をポケットにしまうと同時に、パソコンの電源を切り、少し出て来る旨を勝己に携帯電で報告した九条は、店を出る前にもう一度香月に連絡をし、ものの10分で夕方のアパートに到着した。
正直言って、面倒意外の何者でもなくなった香月に、深入りすることだけは避けたかったが、どどうもそうはさせてくれないらしい。
親会社も絡み、今回の強盗事件ともなれば、後ろ盾をしてやるしかなくななってくる。
それでも、個人的なことに関わることだけは、面倒に決まっているので避けたかった。
そう再び自分の中で面倒事に対する言い訳をして、香月に着いたとこを連絡する。
彼女はすぐに飛び降りて来た。
「すみません、お時間取らせてしまって」
その、ティシャツに7分丈のパンツ姿がいつもと全く違うカジュアルな服装、今しがた洗ったばかりというシャンプーの香りが、しかも、勝手知ったるように助手席に乗ったことで、急に距離感が縮まったような錯覚に陥りそうになる。
九条は、突然身体が窮屈になったような気がして、シートベルトを外した。
「いや……」
「その……私、思い出したことがあるんです。強盗事件のことで」
「………」
彼女の匂いが車中に漂っているような気がして、鼻を肌につけたらどんなにも香るだろうとぼんやり考えていたため、返事が遅れた。
「あぁ……」
「あの……実は、私、一週間くらい前に残業してて……。その時ちょっと寝ちゃって……気づいたら2時になって。
慌てて帰ろうとして、確かに鍵を閉めたんですけど、そこで気を失ったことがあるんです」
「ええ!? 」
全ての香りが吹き飛ぶような話に背中を起こした。
「誰かに襲われて?」
「いや、その時はそうだと思わなくて。何故なら、マスクをした女性が起こしてくれたんです。
倒れたのが見えたから起こしに来たんだって。で、鍵も手元にあったし、頭痛でもしたのかなと思ってそのまま帰りました」
「……」
頭は、忙しく考える。
「けど、さっき、その時の痛みが今回の痛みと似ていたような気がしたことを思い出したんです」
「明日、警察に言った方がいい」
「あの、私……やっばり疑われているんですか?」
「……、僕は君が嘘をついているとは思えない。なぜなら、そういう人物はチーフになれないと思っているからだ」
「…………」
「警察は一通り調べた後、鍵がピッキングされた痕がないことや、セコムのセキュリティが未ロックだった辺りから、内部の犯行の可能性も指摘しているが……」
「私は絶対にやっていません!」
「……だとは思うが、ほう助……つまり手助けをした可能性は残されている」
「……そんな……」
その、怯えた表情は嘘をついていないことを示しているとは思うが、状況証拠が揃いすぎている、と遠回しに警察が言った言葉も頭から離してはいけない。
「その、マスクの女性のことも証拠はないだろ?」
「ないですけど……」
「逆にそれを言って、捜査を混乱させるための嘘と思われるかもしれない、という気もする」
「…………」
暗がりの中で顔色はよく分からないが、青ざめているようには見える。
現場の様子からは、香月が犯人の1人だという可能性が高い、と警察には言われた。
今のマスクの女性説を聞けば聞くほどそう思えてくる気はする。
だが、彼女がそういうことをする人間かどうかという点に置いては、そうではないと思う。
ただ、彼女はエレクトロニクスから来たこともあり、油断はできない。
そういう色々な曖昧な状態の情報で、人を決めつけたくはないが、今はグレーに変わってきているような気がする。
そう、そういう目で人を見ておくことも必要だと思うのだ、会社を守るためには。
「マスクの女性のことは、事実ですから。警察に言わせて下さい」
「……、……事実ならね」
「事実です!!」
本気の、否定ともとれる声と、ともに、彼女の潤んだ目が見えた。
「だって……私がそんなものを盗んでどうするっていうんですか」
「君は鍵だけ開けていれば、誰かが入ってきて盗むという方法だ」
「……それは私がグルってことですか?」
「当然そうなる」
「…………」
「絶対に違うという証拠が逆にある?」
「…………」
香月は黙って考え始めた。だが、それは最初の数秒だけで、後は、流れた涙で放心状態に陥ってしまったように見えた。
こんな状況でも、彼女の姿は実に美しいものだった。
月明りだけに照らされた頬、そして涙。
それに一体どのくらいの男が吸い寄せられてしまったんだろうと素直に思う。
この状況で騙される男もいくらでもいるだろう。
自分も、もう少し若ければそうなっていた可能性は十分にある。
「……」
その顔に見入りすぎたせいで、無駄な長い沈黙が経過した。
「……直接警察に言えば、そう切り返されてもおかしくはない。だから、私が今電話して警察の反応を確かめておこう」
自分もそれに吸い寄せられてしまったのではないか、いや、そうではない。
信頼する従業員に対して、最善の策をやってのけただけだ。
警察にはすぐに電話がつながる。
どううまく説明するべきか考えに考えて結局そのまま話した。
すると、すぐに警察は、似たような事件が数件あり、組織的な犯行の可能性が高い。明日、マスクの女性の人相を詳しく教えてほしい、という拍子抜けの回答だった。
「……というわけだ」
疑心に囚われたせいで、信頼関係を失った。
九条は仕方なく、そっと彼女の方を見たが。彼女は歯を食いしばるように、黙って涙を流していた。
そして、じっと見つめてくる。
九条はその魅惑にたじろぎそうになりながらも、必死で見返した。
「……ありがとうございました」
彼女がふっと視線を外して、頭を下げる。その瞬間、涙がポタポタとレザーのシートへ落ちた音がした。
息がつまりそうになる。
「、良かった。君の疑いが晴れて。君がマスクの女性を思い出したおかげだ」
「………」
彼女は何も言わずに車から降りていく。疑われたことに相当嫌気がさしているのだろう。
あぁ、疑いなど、最後までかけるべきではなかった。
正直言って、面倒意外の何者でもなくなった香月に、深入りすることだけは避けたかったが、どどうもそうはさせてくれないらしい。
親会社も絡み、今回の強盗事件ともなれば、後ろ盾をしてやるしかなくななってくる。
それでも、個人的なことに関わることだけは、面倒に決まっているので避けたかった。
そう再び自分の中で面倒事に対する言い訳をして、香月に着いたとこを連絡する。
彼女はすぐに飛び降りて来た。
「すみません、お時間取らせてしまって」
その、ティシャツに7分丈のパンツ姿がいつもと全く違うカジュアルな服装、今しがた洗ったばかりというシャンプーの香りが、しかも、勝手知ったるように助手席に乗ったことで、急に距離感が縮まったような錯覚に陥りそうになる。
九条は、突然身体が窮屈になったような気がして、シートベルトを外した。
「いや……」
「その……私、思い出したことがあるんです。強盗事件のことで」
「………」
彼女の匂いが車中に漂っているような気がして、鼻を肌につけたらどんなにも香るだろうとぼんやり考えていたため、返事が遅れた。
「あぁ……」
「あの……実は、私、一週間くらい前に残業してて……。その時ちょっと寝ちゃって……気づいたら2時になって。
慌てて帰ろうとして、確かに鍵を閉めたんですけど、そこで気を失ったことがあるんです」
「ええ!? 」
全ての香りが吹き飛ぶような話に背中を起こした。
「誰かに襲われて?」
「いや、その時はそうだと思わなくて。何故なら、マスクをした女性が起こしてくれたんです。
倒れたのが見えたから起こしに来たんだって。で、鍵も手元にあったし、頭痛でもしたのかなと思ってそのまま帰りました」
「……」
頭は、忙しく考える。
「けど、さっき、その時の痛みが今回の痛みと似ていたような気がしたことを思い出したんです」
「明日、警察に言った方がいい」
「あの、私……やっばり疑われているんですか?」
「……、僕は君が嘘をついているとは思えない。なぜなら、そういう人物はチーフになれないと思っているからだ」
「…………」
「警察は一通り調べた後、鍵がピッキングされた痕がないことや、セコムのセキュリティが未ロックだった辺りから、内部の犯行の可能性も指摘しているが……」
「私は絶対にやっていません!」
「……だとは思うが、ほう助……つまり手助けをした可能性は残されている」
「……そんな……」
その、怯えた表情は嘘をついていないことを示しているとは思うが、状況証拠が揃いすぎている、と遠回しに警察が言った言葉も頭から離してはいけない。
「その、マスクの女性のことも証拠はないだろ?」
「ないですけど……」
「逆にそれを言って、捜査を混乱させるための嘘と思われるかもしれない、という気もする」
「…………」
暗がりの中で顔色はよく分からないが、青ざめているようには見える。
現場の様子からは、香月が犯人の1人だという可能性が高い、と警察には言われた。
今のマスクの女性説を聞けば聞くほどそう思えてくる気はする。
だが、彼女がそういうことをする人間かどうかという点に置いては、そうではないと思う。
ただ、彼女はエレクトロニクスから来たこともあり、油断はできない。
そういう色々な曖昧な状態の情報で、人を決めつけたくはないが、今はグレーに変わってきているような気がする。
そう、そういう目で人を見ておくことも必要だと思うのだ、会社を守るためには。
「マスクの女性のことは、事実ですから。警察に言わせて下さい」
「……、……事実ならね」
「事実です!!」
本気の、否定ともとれる声と、ともに、彼女の潤んだ目が見えた。
「だって……私がそんなものを盗んでどうするっていうんですか」
「君は鍵だけ開けていれば、誰かが入ってきて盗むという方法だ」
「……それは私がグルってことですか?」
「当然そうなる」
「…………」
「絶対に違うという証拠が逆にある?」
「…………」
香月は黙って考え始めた。だが、それは最初の数秒だけで、後は、流れた涙で放心状態に陥ってしまったように見えた。
こんな状況でも、彼女の姿は実に美しいものだった。
月明りだけに照らされた頬、そして涙。
それに一体どのくらいの男が吸い寄せられてしまったんだろうと素直に思う。
この状況で騙される男もいくらでもいるだろう。
自分も、もう少し若ければそうなっていた可能性は十分にある。
「……」
その顔に見入りすぎたせいで、無駄な長い沈黙が経過した。
「……直接警察に言えば、そう切り返されてもおかしくはない。だから、私が今電話して警察の反応を確かめておこう」
自分もそれに吸い寄せられてしまったのではないか、いや、そうではない。
信頼する従業員に対して、最善の策をやってのけただけだ。
警察にはすぐに電話がつながる。
どううまく説明するべきか考えに考えて結局そのまま話した。
すると、すぐに警察は、似たような事件が数件あり、組織的な犯行の可能性が高い。明日、マスクの女性の人相を詳しく教えてほしい、という拍子抜けの回答だった。
「……というわけだ」
疑心に囚われたせいで、信頼関係を失った。
九条は仕方なく、そっと彼女の方を見たが。彼女は歯を食いしばるように、黙って涙を流していた。
そして、じっと見つめてくる。
九条はその魅惑にたじろぎそうになりながらも、必死で見返した。
「……ありがとうございました」
彼女がふっと視線を外して、頭を下げる。その瞬間、涙がポタポタとレザーのシートへ落ちた音がした。
息がつまりそうになる。
「、良かった。君の疑いが晴れて。君がマスクの女性を思い出したおかげだ」
「………」
彼女は何も言わずに車から降りていく。疑われたことに相当嫌気がさしているのだろう。
あぁ、疑いなど、最後までかけるべきではなかった。