絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ

 7月1日の月曜日、その3人が揃ったのは奇跡的だと山瀬が言った。    

 繁忙期のこの時期、1日休みが取れた香月を中心に、流れた送別会を建て直すべく、ただの女子会議は開かれたのだった。

 今回は、香織が北エリアに引っ越しているということもあり、香織がリクエストした店に現地集合するという形になった。

「久しぶりーー」

 香織とは、同じ店で出社していてもほとんど会わないので2週間ぶりに会うなどいつものことのように思ったが、もちろん黙っておく。

 今日の香織は黒一色にまとめており、大振りの金のイヤリングが更に大人っぽい雰囲気を演出していた。

 今回も香織が店を予約してくれていて、同い年とは思えないほどのきめ細やかさというか、大人ぶりというか、とにかく、幹部の奥様という言葉がぴったり当てはまる。

 さて、ランチプレートも写真を撮ってから数十分かけて十分に味わい、コーヒーとデザートにになったところで、最初から絶え間なかった山瀬の新体制の愚痴がようやくおさまってくる。

 香織も今日は山瀬に押されてか、黙りがちだったが、ここでようやく、

「SSチームでうちの主人、どう?」

と、聞いてきたのだった。

 とりあえず、SSチームは大変というくらいの話は一度さらりと出たので、みんなもう興味がないものだと思っていたところへのその、意味深ともとれる質問に、香月はこちらを見ない香織がコーヒーを口につける姿を、真意を探るようにじっと見つめた。

「ど、どうって?」

 情けないことに結局、その言葉しか思い浮かばない。

「一緒に仕事してる?」

「あぁ……今は北エリアの新店の作業をしてるんだけど、部長は事務室にいて、みんなは売り場で作業してる。この2週間は細かいレイアウトの確認とか……明日からは商品の搬入が始まるからその準備とかで。プライス作ったり、色々」

「全商品分?」

 と山瀬が口を挟む。

「もち」

「すっごい数」

「そうだよー、一日中その作業をしてる。女性は3人、食品、日用品、周辺であとの1人、元々北店にいた新人の子は被服の方だね」

「へー、すごいね、1人でいきなり被服担当って、新人なのに」

「そうだねー、うん。ちゃらっとしてるのかと思ったけど、結構ちゃんとやってる」

「今日は全員休み?」

 香織が聞いた。その表情は、なんとなく強張っている気がしたが、

「え、あ、うーん……」

 明日商品搬入になるため、ここで一旦全員が休み、明日から5日連続で勤務することになっている。が、香織のその質問は、明らかに勝己部長が家にいないというサインだ。

「多分。でも、他の人はどうだか詳しくは知らないけど、女性は全員休みだよ。でも結構……大変でね。特に新店をSSチームが中心でするっていうのは初めてだから、休みも取りづらいし、特に西エリアから来てる遠い人は、1日休みでも今まで帰れてたところが、2日連休がないと帰れないくらい疲れてるって言ってた。私は今の店から家がまあまあ近い方だから……って言ってもそれでも1時間かかるからホテル暮らしだけど。だから、部長も、全然家に帰れてないよね、多分……」

 と、いうことがどうも言ってほしかったようだ。

「そうなのよね、今日は本社だって」

 それを言われてはっと気づいた。そうだ。部長の場合は、店と本社のやりとりもあるので、本社にも出向かなければならない。その上事務室に缶詰となると、あの現場の緊張具合からいって、本当に帰るどころではないのだろう。

「めちゃくちゃ大変なんだと思う」

 それは、今納得したがまま、首を大きく縦に振りながら言った。

 それに妙に安心した顔つきになった美月は、

「オープンしたら楽になるかしら」と、わざとさらりと言ってのける。

「いやあ……オープンしたら、オープン店の雑用やって、次はまた新しい店の改装だから、どうなんだろう……。もうなんか、すごい数の改装とオープンの予定が入ってて、まだ全然先が見えないし……ベテランの人でもイライラしてる感じだから」

「ベテランって坂東さんとか?」

 山瀬が聞く。

「そうそう、そう! 草薙サブマネとは、えっ!? って感じよね。いやあの、すっごく優しいんだけど、あのやさしさに騙されたとはどうも思えないなあ……」

 香月は、真剣に腕を組んで宙を睨んだ。

「草薙サブマネキレキレだよ!! もうすごいから!! 誰もついて行けないかんじ。あのオンラインの永峰さんとの一件あったじゃん? あれを今度は、須藤サブマネとやったからね」

「めちゃくちゃその話聞きたい!!!」

 香月はコーヒーカップに注意しながらも、身を乗り出した。
< 41 / 44 >

この作品をシェア

pagetop