不倫のルール
「私も、他の子達みたいにお父さんに抱っこしてもらいたい!遊んでもらいたい!そう思うようになった時は、もうお父さんはいなくて……『どうして?』てお母さんに聞いた事もあったけど、お母さんが、泣きそうな顔をするから。何も聞けなくなって……」

あの時のお母さんの顔は、今でも覚えている。

「気が付いたら、お父さんに似た感じの、年上の人ばかり好きになってた」

緑茶を一口、口に含む。柔らかな苦味が、私を落ち着かせてくれる。

「高校生の時、初めて付き合った人。私の短大進学で、なんとなく別れたって話したけど。一番の理由は、彼が県外への転勤が決まったから」

柴田さんの眉が、ピクッと動いた。

「まだ若すぎる私に、将来を決めさせられない……彼にそう言われて、別れたの。確かに、その時の私は彼について行くとは、言えなかったかもしれないけど……なんの相談もなしに『別れる』て決められた事が、悲しくって。また、置いていかれたと感じてた」

「また?」柴田さんの問いに、私は小さく頷いた。

「お父さんも、彼も……私を置いていっちゃった」

柴田さんは、わずかに目を伏せた。

「短大に進学して、新しい生活の慌ただしさに、なんとなく傷も癒えたように思ってた。カフェでバイトを始めたら、そのお店のオーナーは、すごく楽しそうにお料理を作る人で……お母さんが教えてくれた、私の為にナポリタンを作るお父さんと、横顔が重なった」

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