不倫のルール
ゲンさん、今でも楽しそうに調理してるのかな……

「何度か食事に行って『好きだ』て言われて『私も』て応えた。……冷静になって考えれば、おかしな所だらけだったけど、私は普通に付き合っているつもりで……」

思わず、小さく笑ってしまう。あの時の私は、本当に“子ども”だった……

「その人が結婚していると聞いて、信じられなかった……『結婚していた』という事実もショックだったけど、自分が気付かないうちに、誰かを傷付けていた……ていう事もショックで……」

私はただ、ゲンさんの事が好きになっただけのつもりだった。でもそれが、ゲンさんの奥さんを傷付け、ゲンさん自身も苦しくさせていた。

「その人とも、結婚しているのがわかってから、すぐに別れました。……ああ、やっぱりこうなるんだ……て思った。私が誰かの事を好きになっても、結局『別れ』が待っている。私がどんなに求めても、『一人』になってしまう……だったらもう、求めるのは、やめにしようか……」

「……繭ちゃん……」

せつなそうに、柴田さんが私の名前を呼んだ。私は柴田さんを見て、肩を竦めて笑った。

「だから柴田さんに告白されても、応えられなかった。柴田さんの気持ちが、私から離れる時を思うと、怖かったから。自分の柴田さんへの気持ちは、見ないようにしてました」

「繭ちゃん、確かに“絶対”はないけど……転勤して、周りの過剰な期待や、慣れない人間関係とか。いろいろと予想以上に大変だった。でも、一番堪えたのは……繭ちゃんに会えなくなった事だ」

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