不倫のルール
部屋に飾られていたのは、私が二才の時、三人で出かけた初めての動物園で撮られたものだ。

私を抱っこして、母と寄り添うようにして写っている父。

写真を見て、母の話を聞くかぎり、父は結構カッコよかったようだ。

その父が、目がなくなってしまうくらい、おもいっきり笑っていて、目尻にシワが寄っている。

優しそうで幸せそうなその笑顔は、私の記憶と胸に、深く強く刻まれた。


──そういうつもりはないのだが、私はかなりの『ファザコン』のようで……

「いいな」と思う人はいつも、年上で優しそうな人。無意識のうちに、写真の父と似た雰囲気の人に惹かれてしまう。

初めて付き合ったのは、高校一年の終わり。週末にバイトをしていたスーパーマーケットの社員 矢野(やの)さん。

八歳年上で、優しい人だった。笑うと目がなくなり、目尻にシワができる。

それに気付いた時、矢野さんの笑顔から目が離せなくなった。

まだ“子ども”だった私の事を、すごく大事にしてくれた。

“初めて”は全て彼と経験したけれど、私の心の準備ができるのを、焦らずに待ってくれていた。

──思えば、この時が一番まともな恋愛をしていたのかもしれない。

高校を卒業して、私は県内の短大に進学した。県内と言っても、その時住んでいた町からは、車で二時間近くかかる町にある。

私は、短大の近くに引越す事になった。

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