不倫のルール
すぐに飽きてしまったのに、少し前からまた、お世話を始めたんだ。もしかしたら、妹か弟がほしくなったのかな……なんて、菜々子と話してるんだ。

目を細めながら、そんな事を言った黒崎さん。たぶん黒崎さんの目には、人形をお世話する陽菜ちゃんの姿が見えているのだろう……

そんな話でも充分辛いのに、その後に続いた話に、私はさらに衝撃を受けた。

「子どもの頃、いとこの家にビスクドールがあって……初めて見た時、なぜか強く惹かれたんだ。触ろうとしたら、いとこに見つかって、咎められた。『とても高いから、触るな!』て……」

黒崎さんから、子どもの頃の話を聞いたのは初めてだった。

興味をもって、私は静かに頷いた。

「それから、いとこの家に行くたび、こっそりと見にいってた。今から思えば、その冷たいような無垢な美しさに心惹かれたのかな……」

そう言った後、黒崎さんは右手で私の頬を優しく包んだ。

「滑らかな白い肌、何も写さない透明なきれいな瞳……繭子は、俺が惹かれたビスクドールに似ている」

「っ!」私は、小さく息を呑んだ。

……そうか、そうだったんだ……黒崎さんにとって私は、“人形”だったんだ……自分が与えた快楽に素直に啼いてみせるだけの、心を持たないただの“人形”……

黒崎さんは優しく口づけした後、私をゆっくりと居間の畳に押し倒した。ベッド以外でするのは、これが初めてだ。

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