不倫のルール
黒崎さんのいつも通りの、優しく丁寧な愛撫……

ここで黒崎さんと過ごす時、私の瞳は黒崎さんだけを写してきた。黒崎さんには、見えていないようだが……

私は啼きながら、心の中でも泣いていた──



──そして、今日を迎えた。

私は、ようやく決心をした。今日を黒崎さんとの最後の日にする。

先月、黒崎さんと会った時に七月の“今日”を指定して、会えないかとお願いしてみた。

私の初めてのお願いに、少しびっくりしたようだった。

居間に掛けていたカレンダーをめくって、私は黒崎さんに訊ねた。

カレンダーを少しの間見て、黒崎さんはフッと笑った。

「いいよ、その日に来るよ。……その日は、繭子の二十六回目の誕生日だ」

……一応、覚えていてくれたんだ……

黒崎さんと初めて関係をもったのも、二十三才になる直前の七月だった。

二度目に黒崎さんがうちに来た時、「この前、二十三才になりました!」なんて言ってしまった。

誕生日を教えるつもりはなかった。黒崎さんに祝ってもらえるなんて、最初から思っていない。

でも、やっぱり期待してしまうから……

予想した通り、二十四才、二十五才と、黒崎さんと一緒だった誕生日はない。

「誕生日だったね……」思い出したように、そんな言葉をかけられたぐらいだ。

せめて、最後くらいは……一つくらいは“恋人”らしい思い出がほしい……

黒崎さんが来る木曜日ではないけれど、お願いしてしまったのだ。

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