オオカミくんと子ブタちゃん
第2章 新しい生活
私のお仕事?
新生活スタートの今日は、昨日の雨が嘘のように晴れわたっていた。
緑の葉には、まだキラキラと雨の雫が残っている。
私はパパに渡されていた地図を片手に、大きな荷物を持って住宅街をひとり歩いていた。
「す、すごい…。」
どの家も大きく立派な家ばかりで、異世界に迷い込んだみたいな気持ちになる。
その中でも一際目立つ家が、今日から私がお世話になる家だった。
レンガとアートスティックな柵で出来た塀の隙間から沢山の緑や花が見えていて、広いデッキには丸い木のテーブルに椅子。
ハンモックまである…。
そんな素敵な庭に見惚れていると
ガッシャーンーー
乱暴に門扉をならして、女の人がひとり飛び出してきた。
なに?なんか怒ってるみたいあの人…
あ…目が合っちゃった
女の人が凄い勢いで私の方へ走ってくる。
な、なにっ⁈
怖いんですけどっっ!
「後任の人ねっ!あんたなんかっ、すぐにクビになるわよっ‼︎」
凄い形相で私に向かって、わけのわからない事を言ってから女の人は去って行った。
「な、なんなの??」
クビ?
全く意味がわからないよっ⁈
………………う〜ん
……なんか不安になってきた…かも??
この家って何か問題でもあるのかしら…
私が門の前でう〜んと悩んでいると
「もしかして、葵ちゃん?」
突然、低い声で自分の名前を呼ばれ、振り返るとそこにはひとりの男性が立っていた。
誰?
中年の男性なんだけど、とても品のある素敵な人…
「驚かしてごめんね。私は君のお父さんの友達で、この家の主(あるじ)です。」
「よろしくね」とニッコリと笑って挨拶をしてくれる。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ///」
さすが総合病院の先生。
落ち着きがあって紳士で、とっても素敵なおじ様。
「さっ、遠慮せず早く家の中に入って。息子も今日は家にいるはずだから紹介するよ。」
スッと私の荷物を持って、家の中へと案内してくれるおじ様。
おじ様のあとについて門をくぐると、広がる景色に驚く。
門扉から玄関までのアプローチが長く、サイドにはさっき見えていた素敵な庭が広がっている。
あ…木でできたブランコもある…。
玄関に入ると天井が吹き抜けになっていて、柔らかい光が窓から注がれていた。
「どうぞ」と言って、おじ様がスリッパを出してくれる。
私はそのスリッパを履いて、再びおじ様の後をついて行った。
カチャッ…
おじ様の手によって静かに開けられた扉の向こうは、とても広いリビングダイニングで窓からはさっきの素敵な庭が一望できる。
「お手伝いさんの佐伯さんを紹介するよ。」と言って、おじ様が大きな声でお手伝いさんを呼んだ。
……………………………………。
静まり返ったリビングにお手伝いさんの声は返ってこなかった。
代わりに返ってきたのは…
「あの女なら、さっきクビにしたよ、親父。」
想像もしてなかった男の人の低い声。
「……またダメだったか。」
ふぅ…と溜め息をついて「こっちに来て挨拶をしなさい」とおじ様がソファの方に向かって言った。
息子さん??
え?
ハルちゃんって子だよね?
小さい 男の子??
ん?でも、さっきの声…低かったよね?
私は混乱しながらソファの方を見た。
ーーーーーーえ?
どういうことっ⁈
…………ウソ…で…しょ……。
ソファの影から姿を現したのは、私が想像していたハルちゃんではなかった。
背が高くて、肩幅も広くて…
髪もサラサラで…
ーーー 見たことのある綺麗な顔。
「な、な、なんでっ⁈大賀見がいるのーーっ‼︎」
私の目の前には、あの大賀見 春斗の姿があった。
なに⁈どうゆうこと??
大賀見がハルちゃんだなんてっ。
聞いてないよーーーーーっっ‼︎
「声がデケェよ、うるせぇな。しかも、それはこっちのセリフだから。なんでお前がうちにいるんだよっ。」
今までで一番、眉間にシワを寄せて不機嫌な顔をしている大賀見。
「ハルは葵ちゃんと知り合いなのか?」
おじ様がニコニコと嬉しそうに間に入ってきた。
おじ様…この空気感でなぜ笑えるの?
「私…たち、同じクラスなんです。」
しかも隣の席なんです。
入学初日から相性最悪なんです私達っ。
だから 一緒に住むなんて無理だと思うんです。
私は眉を下げ泣きそうな顔で、おじ様を見上げる。
「そっか、そっか。じゃあ、仲良くやっていけるね。」
満足そうに笑いながら、おじ様が私の肩をポンポンッとした。
お、おじ様……どうしてそうなるの??
「ハル、葵ちゃんは親友の娘さんなんだ。彼が日本へ戻ってくるまでの一ヶ月間、うちで一緒に住むことになったから。仲良くするんだよ。」
「は?聞いてないし。」
「私が家にいる時に、ハルが家に居なかったからね。話す機会がなかったんだよ。」
おじ様がニコニコとしているのとは対照的に、大賀見はとてもムスッとした表情をしていた。
そりゃ、嫌だよね。
いきなり同級生が一緒に住むから仲良くしろだなんて…。
しかも、気に入らない私となんて余計に嫌だよね?
私だって嫌だよ。
大賀見と一緒だなんて…。
学校にバレたら、女の子達にどういう仕打ちにあわされるか分からないし。
それに…パパもおじ様も気にするなって言うけど、無償でお世話になるなんて……。
せめて家賃くらいはお支払いしないと、気が引けてここには居づらいよ。
「あの、私…。やっぱり何もしないでお世話になるのは申し訳ないので、自分の家に帰ります。」
私がお辞儀してリビングから出て行こうとしたら…
「ちょっと待って、葵ちゃん。」とおじ様に引き止められた。
う〜んと言いながら、おじ様が胸の前で腕を組み何か考え始めた。
しばらくして、おじ様がニッコリと私を見て微笑む。
「葵ちゃん、うちで住み込みの家政婦さんをしてみない?」
ーーーおじ様のこの発言によって、私と大賀見の同居生活が始まったーーー