オオカミくんと子ブタちゃん
*****


「葵ちゃん、うちで住み込みの家政婦さんをしてみない?」



このおじ様のとんでもない発言で、私は今日から大賀見家で家政婦さんをする事になった。

しかも、おじ様はこの後すぐ病院から緊急連絡が入って、家を出て行ってしまった。

つまり、今はあの大賀見 春斗と二人きりという最悪の事態に陥っている。

「マジ、最悪…。子ブタと同居だなんて。」

「こ、こっちの方が最悪だよっ。アンタが家政婦さんをクビになんてするからっ。」

「…………………。」

大賀見の表情がどんどん冷たいものに変わっていくのがわかった。

な、なに?

ちょっと、怖いんですけど…。

そんなに怒るようなこと言った?

ガツンッーー

大賀見がいきなり壁を殴り、鈍い音がリビングに鳴り響く。

「お前に何がわかんの?あの女に四六時中ジロジロ見られて、風呂もゆっくり入れない状況って何だよ。自分家で気が抜けねぇなんて、疲れんだよっ。」

うそ……

大賀見が声を荒げて感情を剥き出しにする姿なんて…初めて見た。

それに何?

それってセクハラじゃん。

そんなこと、毎日されてたら嫌だよね?

疲れるし、安心して眠ることもできない…。

そんなの…ストレスがたまってしかたないよ。

「私…そんな事しないよ?」

「当たり前だっ!」

そう言って、大賀見が一歩踏み出したと思ったら……

大賀見の顔が一気に近づいてきて、気がつけば私は身体の自由がきかなくなり、なぜか天井だけが見える状態…。

「な、なにすんのよっ!ちょっと、退きなさいよっ///‼︎」

私は大賀見に押し倒されていた。

「…うるせぇ…な、頭に響くから…静かにしろよ。」

ちょっとっ///

耳元で喋らないでよっっ///

でも…あれ?

なんか、コイツの息…熱い??

どうにかして腕を動かし、大賀見の額に手を当ててみる。

「ーーっ⁈大賀見、熱があるじゃんっ!」

「気のせいだ…バカ。」

ーーんなわけないでしょっ!

けっこうな高熱だよコレはっ。

私は、なんとか大賀見の下から抜け出した。

「大賀見、立てる?部屋まで歩ける?」

大賀見は無言で起き上がり、フラフラと今にも転けそうな足取りで歩いている。

「ほらっ、私につかまって。」

私は大賀見の脇の下に入り込み、大賀見を支えた。

「な、なにしてんだよっ。離れろ。」

大賀見は腕を上げてフラフラとしながらも私から離れようとした。

「うるさいっ。病人は黙って言う事ききなさいっ。」

離れていこうとした大賀見の腕をぎゅっと掴み、少しでも大賀見が歩きやすいように支え直す。

大賀見は抵抗することに疲れたのか、大人しく私に支えられながら部屋へと移動した。

なんとか大賀見をベッドに寝かせ、薬箱もリビングで探し出すことができた。

とりあえず、薬を飲ませなきゃ…

「ご飯はちゃんと食べたの?」

「食欲なんてねぇーよ。もういいから、ほっとけよ。」

コロンと私に背を向けるように寝返りをする大賀見。

さっきまでおじ様がいたのに、体調が悪い素振りなんて全く見せなかったのは…なぜ?

おじ様の仕事の邪魔をしてはいけないからなの?

いつも、こんな風に我慢してるの?

そんな私と同じようなヤツ…

「ほっとけるわけないじゃん。」

「日本語の通じねぇヤツだな。」

「なんとでも言えば?とりあえず、お粥を作ってくるから、出来るまで大人しく寝ておきなさいよっ。」

パタン…

私は部屋を出てキッチンへと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇



パタン…




静かに部屋のドアが閉まった。

はぁ…体がだりぃな。

昨日、雨の中を傘も差さずに帰ったのが、さすがにマズかったかな?

それにしても、なんなんだよ親父のヤツ…同居なんて全く聞いてねぇぞ。

しかも、同じクラスの子ブタ…。

アイツ生意気なんだよ。

初めて会ったときに、いきなり俺に文句を言ってくるし…

子ブタっつったら、オオカミって言い返してくるし…

ほんと、気の強ぇ女……

でも、俺に媚びない女ってかなりレアだよな?

住み込みの家政婦するみたいだけど、とりあえず様子をみてみるか。

今までの家政婦みたいに女を出してきたら、速攻に追い出してやる…………
………………………………

俺は熱のせいで力尽き、いつの間にか寝てしまっていた。

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