オオカミくんと子ブタちゃん
*****


チュン、チュン……


雀の声とカーテンの隙間から差し込む柔らかな光で、俺は目覚める。

「ん…、なんかよく寝たな。」

俺は久しぶりにぐっすりと眠り、スッキリとした気分だった。

体を起こし、背伸びをしようと思ったら何かを掴んでいることに気づく。

ーーーーーっ⁇

「な、なんでっ、お前がここに居るんだよっ!」

ってか、なんでコイツの腕を俺が掴んでるんだよ///

俺は慌てて子ブタの手を離す。

「んーー、あぁ…おはよぉ。体調はどう?」

目を擦りながらボーとした顔で子ブタが聞いてきた。

……そうか

俺、熱出して寝込んでたんだっけ。

それで、コイツが看病してくれたんだった。

朝までずっと、俺のそばにいてくれてたってことか?

「朝ごはん作ってくるから、熱はかって着替え済ましておいてね。」

子ブタはそう言って、何事も無かったかのように部屋を出ていった。

「プッ、オカンかよ…見た目とのギャップがありすぎだろ。」

俺はベッド横に置いてある体温計を脇に挟む。

しばらくして、ピッピッと音が鳴り熱がない事を確認してから、シャワーを浴びに一階へ下りた。

はぁぁぁ…気持ちいい…

そういえば、こんなに安心して風呂に入るのも久しぶりだな。

今までは、寝るときも、風呂に入るときも、いつ家政婦が入り込んでくるかわからない状況だったからな…。

あの女に関しては訴えてもいいくらいだぜ。

あんなんで給料を持っていくなんて最悪な女だよな…

それに比べて ……子ブタって、なんか今まで俺の周りにいる女とは違う気がする。

見た目通りに気は強ぇけど…

媚びないし、面倒見もいい。

ーーーーーーーーーーーーーーーっ

いやいや、なに言ってんだ?俺?

看病してもらっただけじゃないかっ。

弱ってるから思考がおかしくなってるだけだ。

信用して油断してたら、何されるかわかんねぇんだからな。

ガシガシッと頭を洗って風呂を出て、髪を乾かさずにダイニングに入った。

「すげぇ、いい匂い。」

匂いに刺激され腹がグーと鳴る。

「今、お味噌汁入れるから座って待ってて。」

キッチンから子ブタが、ヒョコッと顔を出して言った。

俺は言われるがまま椅子に座り、 テーブルに並べられた朝ご飯を眺める。

出し巻き卵、湯豆腐に焼き魚…

そして子ブタが今運んできた、白米と味噌汁。

「フッ、旅館かよ。」

「あっさりした物を作ろうとしたら、こうなったの。病み上がりだから、お米は柔らかめに炊いてるからね。」

………マジ、面倒見がいいな。

気が効くというか…。

こんな朝飯、初めての食うかも?

男つくって出て行ったババァは、家事全般出来ない女だったし。

今までの家政婦が作った飯なんて、食べる気しなかったしな。

それにしても、 コイツの作る飯…うめぇな。

病み上がりなのに完食してしまった。

「…ごち…そうさま…。うまかった///」

礼くらいはな、さすがに言わないとマズイでしょ。

照れくさくて早くこの場を去りたかった俺は、食べ終わってすぐに席を立とうとしたが……

「な、何してんだよっ、子ブタ///」

「アンタねぇ、こんな事してるから風邪なんてひくんだよ。」

椅子に座っている俺の脚の間に立ち、肩にかけてあったタオルで、濡れたままの俺の髪を拭き始めた。

「やめろって。」

俺は子ブタの両手首を掴んで動きを止めた。




あれ?コイツって……




近くでまともに子ブタと目が合い初めて気付いた。




コイツ……相当…………可愛い。




全体的に整った顔をしてる。

特に…この唇はヤバイ///

柔らかそうで、そのうえ…なんか…色っぽい///

俺は無意識に子ブタの後頭部へ手を伸ばし引き寄せる。

グッと顔が近づき、俺の視線は色っぽい唇に釘付けになっていた。

どんどん唇を近づけ、あと数センチで触れ合うというところでーーーーーーー



「何してるの?ハル。」



その声で我に返り、慌てて子ブタを突き放す。

幼なじみの涼介がいつもの様に合鍵を使い、家に入ってきていた。

「…別に。勝手に入ってくんなよ、涼介。」

俺…さっき子ブタに何しようとした⁈

なんだ?

コレ??

俺の鼓動がやたらに早くなっていた…。



◇◇◇◇◇◇◇


「何してるの?ハル。」


え??

さっきのは何???

大賀見の顔が、すごく近くにあったような気がするんだけど///

ーーーってか、滝沢くん⁈

えっ?えっ?

なんでここに居るの???

「…別に。勝手に入ってくんなよ、涼介。」

何も無かったかのように話し出した大賀見。

さっきのは…気のせい、カナ?

「あれ?小辺田さん?」

滝沢くんが、とても不思議そうに首を傾げている。

「お、おはよう?滝沢くん。」

私も何がなんだか…よく分からないんだけど…。

「なんで小辺田さんがハルの家にいるの?」

滝沢くんこそ、なんで?

「えっと…」

どう説明しようか私がモゴモゴしていると

「コイツの親父がウチの親父と友達で、コイツの親父が海外にいる間、ウチで預かることになったんだよ。
ーーで、俺が前の家政婦をクビにしたから、コイツが急遽、ウチの家政婦をする事になった。」

とても面倒くさそうに大賀見が説明をした。

「ふーん、そうなんだ。それにしても、ハルが女の子と2人っきりで同じ空間にいるなんて珍しいね。」

「別に。メシ食ってただけ。それより、何の用だよ。」

「あっそうそう、この前のDVDの続きを借りに来たんだ。」

「あれかぁ。俺の部屋にあるから取ってくるよ。」

そう言って大賀見は二階へ上がっていった。

滝沢くんが振り返り、爽やかな笑顔を私に向ける。

「小辺田さんの部屋はどこになったの?空いてる部屋ってことは、ハルの隣の部屋?」

ーーーーーそういえば私、まだ部屋を教えてもらってなかった。

「う〜ん…どこでしよう?」

「えっ?まだ部屋に案内してもらってないの?」

「まぁ、色々あって…それどころじゃなかったんだよね。」

へへ…と笑ってみる。

「ダメでしょ、ちゃんと言わなきゃ。ハルに遠慮してたらキリがないよ。荷物はコレだけ?」

そう言って滝沢くんは、ソファの横に置いてあった私のボストンバッグを持ち上げた。

「行くよ。」

ニッコリと笑って私の手を引き、階段を上がっていく滝沢くん。

て、て、手を繋いでるよ///

滝沢くんって普通にスキンシップをとってくるから、こっちが恥ずかしくて困っちゃうよ///



トントン…



滝沢くんが大賀見の部屋をノックしてドアを開ける。

「ハル、小辺田さんの部屋ってどこ?」

「あぁ…、俺の部屋の隣でいいんじゃね?」

「…だって、じゃ、行こっか。」

滝沢くんは手を繋いだまま、私を隣の部屋へ案内してくれる。

ガチャ…

部屋のドアを開けると、とても素敵な空間が広がっていた。

ふかふかのベッドにアンティークな机、丸みのある窓にフリルのついた可愛いカーテン。

「素敵…。」

私が部屋に入り、うっとりとしていると

「ここはゲストルームなんだよ。叔父さんは交友関係が広いからね。」

「滝沢くんは、このお家のことよく知ってるんだね。」

「幼い時から毎日のように遊びに来てたからね。ハルも昔は素直で可愛かったんだよ。」

「はは…なんだか信じられないね。」

私は苦笑いをしながら答えた。

「悪かったな、可愛げがなくて。」

そう言って、大賀見は後ろから私の肩に腕をのせ全体重を掛けてきた。

「重いっ!ってか、あんたのパーソナルスペースさっきから、おかしいっ!」

昨日まであんなに冷たかったのに、髪を拭いてあげてる時も、今も急に距離が近すぎるっ///

「そうだよ、ハル。小辺田さんが困ってるから離れなよ。」

滝沢くんが私の肩に乗っかっている大賀見を取り除いてくれた。

「ありがと……
ハッ⁉︎気が利かなくてゴメン。私、お茶を淹れてくるね。」

私はお客様である滝沢くんにお茶も出してない事に気が付いて、慌ててキッチンへと向かった。




「ほらよ、続きのDVD。」

「うん、ありがとう。………それにしても、珍しいよね。」

「何がだよ。」

「ハルが女の子に触れるなんてさ。もしかして僕が小辺田さんと手を繋いでたから、ヤキモチでも妬いた?」

「はぁ?そんなわけねぇだろ。」

「そっか、じゃあ、僕が小辺田さんを落としても文句言わないでね。」

「あ?何言ってんだ、涼介…。」

こんな会話をしてるなんて、私は知る由もなかった。
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