オオカミくんと子ブタちゃん
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今日からいつもと違う道を帰るため、優衣とはすぐに別れた。

前の家は駅まで優衣と帰れたんだけど、新しい家…つまり大賀見の家は学校から徒歩圏内にあって近い。

しかも、帰り道に公園やスーパーもあって、とても住みやすいところだ。

私は夕飯の材料を買うため、スーパーに行こうと公園の前を通った。

子供たちの元気な声があちこちから聞こえてくる。

「平和だなぁ〜。」

「平和なのは、お前の頭の中だ。」

独り言に返事が返ってきたので、驚いて声がした方を見る。

公園の入口にある大きな木に、やたらとママさん達の視線を集めてる男がもたれていた。

「おせーよ、子ブタっ。」

「へ?なんでアンタがここにいるの?」

先に帰ったはずの大賀見が、なぜか私を待っていた。

「……………。今晩、食いたい物がある///」

なんか間があったような…?

ま、いっか。

「何が食べたいの?」

「…スーパーに行ってから決める。」

は?

食べたい物があるって言っておいて、食べたい物が決まってないって…どういうこと?

謎なヤツだな…。

「んじゃ、買い物に付き合って。」

「仕方ねぇから付き合ってやるよ。」

ママさん達から「行っちゃうの?」みたいな視線を背中に浴びながら、パンパンと軽く制服を叩いて木の屑を落とし、大賀見がこっちに向かって歩いてきた。

私達は2人でスーパーへ向かい買い物を始めたんだけど…

「どこに居ても視線を集める人だなぁ。」

「は?何が。」

「気付いてないの?お店の人の視線がほぼアンタに集まってるよ。」

この時間帯は、お買い物中のママさん、店員さんもバイトの入れ替わり時間で若い女性が多い。

みんな大賀見の事をうっとりとした目で見ていて、なんだか私みたいなのが隣にいて申し訳ない気持ちになる。

「大賀見って、けっこう鈍いんだね。」

「鈍いのはお前だ…バカ。」

「え?いやいや、大賀見でしょ。」

「はぁ…もう、いいよ。ってか、人の視線なんていちいち気にしてられっかよ。面倒くせぇ。」

なんで、私が溜め息をつかれなきゃいけないんだ?

「んで、なに作るんだよ。」

「大賀見が食べたい物があるって言ったんじゃん。」

ああ…と言って口元に手を当て考え出した。

さっきから、なんかヘンなんだよね?

私の事を待ってたみたいだし、食べたい物があるっていいながら何も考えてないみたいだし…。

「それじゃ…ハンバーグ。」

「え?」

「だから、ハンバーグ///」

「大賀見、ハンバーグが好きなの?」

大賀見みたいなクールな人がハンバーグって…

か、可愛い///

ギャップ萌えってヤツ?

「好きで悪いかっ。いいから作れよ///」

照れ隠しなのか私の髪をクシャクシャとする。

「ふふ…了解。ハンバーグね。」

私がレジを済ませ袋を持とうとすると、大賀見が黙ったまま横からスッと袋を取り上げた。

ーーーーーもしかして……

公園で待ってたり、食べたい物があるって言っておいて決まってなかったり、それって荷物を持つためにしてくれた事なの?

「…ありがとう。」

「…なにがだよ。」と言って、大賀見はスタスタと歩いて行ってしまう。

ふふ…

なんだか、初めの印象とだいぶ変わってきたな。

初めは、なんて傲慢で冷たい人なんだと思ったけど、本当は不器用で優しくて…可愛いところもある人なんだね。



◇◇◇◇◇◇◇


「何やってんだよアイツ。おっせぇなぁ。」

俺は茉莉花ってヤツから逃げるように教室を出て、いま帰宅経路にある公園で子ブタを待っていた。

うちの住込み家政婦として働き出した子ブタは、掃除も洗濯も完璧で料理まで美味い。

それに、風呂も安心して入れるし夜もグッスリと眠れるようになった。

なにより、俺に関心がないことが嬉しい

……はずなのに

俺以外の男、涼介に関心を持っているのがなんだか面白くない。

何故なんだ?

アイツが気になって仕方ない。

今日の昼メシの時も、涼介とアイツを見てると、なんだか胸の辺りがザワザワして落ち着かないし

教室からグランドにいる涼介の姿を、嬉しそうに眺めているアイツを見ると、イライラとする。

今だって柄にもなく、こんなところでアイツを待っている。

何をやってるんだ?俺は…

はぁ…と溜め息をつき視線を上げると、アイツの姿が目に入った。

サラサラと綺麗な長い髪を揺らしながら歩く姿に、思わず吸い込まれる。

アイツの周りだけが、なんだかキラキラとして見えた。

俺だけじゃなく、たくさんの男の視線を集めているアイツ。

全く気付いてねぇな…あれは。

今にも声をかけそうな男が、ウジャウジャといるってぇのに…危機感ゼロ。

「平和だなぁ〜。」

アイツがオレンジ色の空を見上げながら、呑気に独り言を言っている。

はぁ…マジで厄介な女。



「平和なのは、お前の頭の中だ。」



この俺が女とスーパーへ行って、荷物を持ってやる日が来るなんて想像もしてなかった…

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