オオカミくんと子ブタちゃん
*****


「ちょっと待ちなさいよっ!」


入学式が終わり教室へと向かう途中、私はひとりの男とぶつかった衝撃で尻もちをついていた。

男は私をチラッと見ただけで、何も無かったかのように歩いていく。

ふつうは「ごめん」とか「大丈夫?」とかひと言あってもいいと思うんだけどっ!

沸々と怒りが込み上げてきて、私はその男を追いかけ腕を掴んで引き止めた。

「人にぶつかっておいて、ひと言も無いなんて失礼なんじゃないのっ。」

「は?」

男が不機嫌な声で返事をしながら振り返る。

っ///⁈

私は一瞬怯んだ…。

なぜなら、その男が超イケメンさんだったから。

サラサラと風になびく色素の薄い長めの前髪

その下から覗く切れ長の目にキリッとした眉

スッと通った鼻筋に薄い唇…

全てのパーツが綺麗で思わず見惚れてしまう

「なに?お前。キモっ。」

ひとことだけ言ってスタスタと歩いて行ってしまった。

立ち去る後ろ姿まで綺麗…

ーーっじゃなくてっっ。

きっ、キモいですってー‼︎

マジ失礼な奴っ。

イケメンだけど性格は最悪じゃんっ‼︎

あーーっ見惚れてしまった自分が情けないっ。

私は気を取り直して、急いで自分の教室へと向かったが……


<1ーBの教室>


や、やばい。

完璧に乗り遅れた…。

私が教室に入ると、既にグループが何組か出来上がっていた。

このままじゃボッチ決定じゃん。

あんなムカつくイケメンに関わってたせいだっ。

はぁ、 仕方ない…

とりあえず、黒板に貼り付けてある座席表を見て自分の席を確認する。

え〜と…あった。

やったね、窓際の1番後ろっ。

私はグランドが見える窓際の1番後ろの席へと移動し、椅子を後ろへ引いて座る。

ポカポカと太陽の光があたって、暖かく心地がいい。

やったねっ

この席、 さいっこー。

私は机にうつ伏せになり腕を前へ伸ばし、リラックスモードへと入った。

「さっきは災難だったねぇ。」

前の席の女の子が振り向いて、私に話しかけてきた。

私は腕を前に伸ばしたまま 、伏せてた顔だけをあげ声がした方を見る。

か、可愛いっ///

クリクリの目にくるんと上を向いた睫毛

小さな口に桜色のリップ

胸元まである髪の先を緩く巻いている

全体的にふわりと優しい感じ…

私とは対照的で守ってあげたくなるタイプの子

私はどちらかというと冷たい感じの顔で、目は二重だけど大きいという程ではない。

唇はぷっくりしてる方かな…

髪は背中まであるサラサラのストレート

髪だけは私の自慢なんだ。

「さっきの見られちゃってたんだ。」

へへ…と照れ笑いをしてみる。

「ひどいよねぇ。ぶつかっておきながら、ノーリアクションなんて。私、ああいう人って苦手なんだよね。」

おっと…可愛い顔とは裏腹にけっこう毒吐く系?

なんか気が合いそうだな。

「だよねー、私も苦手だよ。」

私たちはお互いにへへっと笑った。

「私、桂 優衣(かつら ゆい)。優衣でいいよぉ、ヨロシクね。」

優衣が 綺麗にネイルがされてる右手を差し伸べた。

「私は小辺田 葵(こべた あおい)。葵でいいよ、こちらこそヨロシク。」

私も右手を差し出して握手をする。

「優衣のネイル、超可愛いね。」

リップと同じ桜色のネイルで、小さなお花のチップが乗せてあって、とても可愛い。

「ありがとぉ。コレお姉ちゃんにしてもらったんだ///」

とても嬉しそうに話してくれる優衣。

お姉ちゃんのことが大好きなんだなぁって伝わってくる。

私達はとても気が合い話しが弾んでいた。

校長の頭はズラだの話が長いだの、さっきの入学式の話しでケラケラと笑っていたら

「キャ〜!」と廊下から黄色い声が聞こえてきた。

なんだ?芸能人でもいたのか?

なんて思っていたら、 どんどん黄色い声が近づいてきて、ガラッと教室のドアが開いた。

私と優衣は、どんな人が入ってくるのか気になってドアの方を見る。

「「げっ…」」

私と優衣の声がシンクロした。

なぜなら、開けられたドアからあの性格の悪いイケメンが入ってきたからだ。

教室にいる女子は、きゃーきゃーと黄色い声をあげている。

そんな状況でも性格の悪いイケメンは全く気にもせず、マイペースに黒板に貼り付けてある座席表を確認していた。

お願いしますっ神様っ!

どうか、どうかっ!

アイツの席を遠くにして下さいっ!

私は手を合わせ必死に拝む。

性格の悪いイケメンが確認し終わり、指定された席に向かって歩き出した。

う、嘘でしょ…⁈

性格の悪いイケメンが、こっちに向かって歩いてくる。

ストップ!その辺で止まってっ!

私の思いは届かず、性格の悪いイケメンは更に近づいてくる。

ーーーーー……。

お…終わった。

性格の悪いイケメンは、私の隣の席の椅子を引いて座ってしまった。

優衣と私が同じ様に残念な表情になっていると、チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入って来た。

「1ーB担任の小林 祐樹です。一年間ヨロシク。」

担任の先生が簡単に自己紹介してから、生徒である私達の自己紹介タイムが始まった。

阿部さんから始まって上野さん、宇佐美さん、江口さん…

次は優衣の番だ。

優衣が椅子を静かに後ろへ引きスッと立ち上がった。

「桂 優衣です。西中から来ましたぁ。将来の夢はネイリストになる事です。ヨロシクお願いします。」

ニコッと笑って自己紹介を終え席に座る。

「かわいい〜」とか「うおー」とか歓声があがっている。

わかるよ。そのみんなの反応。

でもさ、私の事も考えてよ…。

この後で私、自己紹介すんの?

マジでやりにくい…。

面倒だし、名前だけでいいや。

私はガガッと椅子を引いてパッと立ち

「小辺田 葵です。ヨロシクお願いします。」

と言ってサッと席に座った。

ククッ…

隣の席から小さな笑い声が聞こえてきたのでそっちを見ると、性格の悪いイケメンが私を見て意地悪そうに笑っていた。

「なに?」と他の人の自己紹介中なので、小声で性格の悪いイケメンに問いかける。

「子ブタ あおい…超ウケる。」と言い肩を揺らしククッと笑っている。

「なっ‼︎子ブタじゃないっ!こ、べ、たっ!」

私は必死に怒りを抑えながら小声で答えた。

性格の悪いイケメンは、反対側を向き私を無視している。

こいつ、マジで腹立つなっ‼︎

私も反対側を見て、性格の悪いイケメンが視界に入らない様にした。

どんどん自己紹介が進んでいって、次はあの性格の悪いイケメンの番になった。

ガガッと椅子を引いて、面倒くさそうに自己紹介を始める。

「大賀見 春斗(おおがみ はると)。」

名前だけ言って座った。

きゃーと黄色い声が再びあがる。

理解不能だ。

どこがいいんだか…こんな奴。

「プッ…オオカミ はるとぉ。超ウケる。」

私は大賀見のマネをして仕返しをしてやった。

「…………。」

まさかの無反応っっ‼︎

マジで腹立つーっ!

早く席替えしたーいっっ‼︎

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