オオカミくんと子ブタちゃん
*****

俺は白咲の目を盗み持ち場を離れ、あの女がいるD組スペースへと向かった。

目的地に着くまでに、女のキャーキャーと言う声がウザったくてイライラが溜まる。

最悪な女は「どこ行くの?」とか「二人で抜け出さない?」とか俺の行く手を阻む。

いつも笑顔であしらっている涼介をある意味尊敬する。

俺にはとうてい出来ない芸当だ。

やっとの想いでD組のスペースまで来て、その辺にいる女に声をかけた。

「沢口っている?」

「お、お、お、大賀見くんっ///」

真っ赤な顔をしながら両手で口を覆う女。

答えになってねぇんだけど。

周りの女もキャーキャーとうるせぇし。

マジでうぜぇな。

「もう一回聞くけど、沢口ってどこ?」

「は、はいっ、すぐに連れてきます///」

女はキャーと叫びながら走っていった。

はぁぁぁ…………

なんか疲れる。

なんで女って、あんな反応なんだ??

普通にできねぇのか?

とか思ってたら、さっきの女が向かった先で

「「「キャー///」」」

また奇声が上がっている。

なんでもいいから早く連れてこいよ。

もう、すでにウンザリの俺……。

群れの中から小走りで、沢口がやって来るのが見えた。

「春斗くぅーん、お待たせぇ。」

沢口は上目遣いで首を傾げながら、俺を見てくる。

いや、マジでいいから。

そーゆーの。

「ちょっと、いいか?」

「う、うん///」

俺は沢口と話しをするため、木の茂ったハイキングコースの方へ向かった。

少し奥まで歩いて、皆んなからは見えないくらいのところで立ち止まる。

今は昼食時のせいか、ハイキングをする人も居なくて人気がない。

俺にとっては好都合だ。

「単刀直入に聞く。この前、小辺田に水をぶっかけたのはお前だよな?」

「春斗くん、ひどぉーい。私じゃないよぉ。」

沢口は口を尖らさせながら、体を左右に捻っている。

なに?シラ切んの?この女…

どんだけ図太いんだよ。

はぁ…と溜息をついてから、もう一度、沢口に聞いてみる。

「俺らが中庭の掃除してる時、3階の女子トイレから小辺田に水をぶっかけたよな?俺、お前と目が合ったと思うけど。」

俺が見ていたと分かって、沢口はさっきまでとは違う険しい顔つきで俺を見返してきた。

「そうだよ。私が葵ちゃんに水をかけてあげたの。」

「なんで、そんな事すんだよ。アイツがお前に何かしたのか?」

「したよっ!」

沢口は、今までのゆっくりな口調とは違い、ハッキリと強く答えた。

「アイツが何したんだよ。」

「葵ちゃんは、私から春斗くんを横取りしたのっ‼︎」

「は?」

なに言ってんの?コイツ?

俺を横取り?

全く意味がわかんねぇんだけど…

「春斗くんは私の彼氏になる人なのっ!私の春斗くんに近づくなんて許せないんだからっ‼︎」

おい、おい、大丈夫かよ…この女。

俺は自分の頭に手を当てながら、目の前の痛い女を見ていた。

この女の変な妄想で子ブタは嫌がらせをされたわけ?

確か…この女と子ブタって従姉妹って言ってたよな?

普通、従姉妹にそんな事するか?

なに考えてんだ?この女。

「アイツのスリッパをどっかやったのもお前?」

「そうだよ、茉莉花がやったの。葵ちゃんごときが、春斗くんに馴れ馴れしく話しかけるからっ。」

なんなんだよ、この女…

痛い女だとは思ってたけど、ここまで痛いとはな。

いきなり沢口がニヤニヤとしながら口を開く。

「でも、茉莉花がお水をかけてあげたおかげで、上級生のお兄さん達は喜んでたでしょ。私、褒められてもいいくらいだよ。」

褒められてもいいくらい?

アイツが、どんな思いをしたと思ってんだよっ!

俺の中の何かがブチっと音を立てて切れた。

ドンッ‼︎

俺は沢口を力強く木に押し当て、胸ぐらを掴む。

体重の軽い沢口は持ち上がって爪先立ちになっているが、俺は気にもとめなかった。



「お前っ、これ以上アイツに何かしたら許さねぇっ!女だからって容赦しねぇからなっ‼︎」



俺は余りの怒りに我を見失っていた。


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