オオカミくんと子ブタちゃん
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トントントン…


私は慣れた手つきで野菜を刻んでいく。

学校が終わってすぐにパパから連絡があった。

今日は珍しく早く帰って来れるらしい。

「パパの大好きなカレーライスにしよう」と私はウキウキで学校帰りに買い物をしてきて今に至る。

パパと一緒に夕飯を食べるのは何日ぶりだろう?

1カ月ぶりくらいかな?

ほぼ毎日のように残業してるもんな…。

そんな事を思いながら、私は何種類ものスパイスを混ぜ合わせていく。

キッチンに食欲をそそるいい香りが充満する。

ピポ、ピポーン…

家のチャイムが2連続で鳴った。

パパだっ!

幼い頃から1人で留守番をすることが多かったから、防犯のためにパパと2人で決めたチャイムのリズム。

ママが居なくなってから10年間、ずっと続けてきたルール。

ママは私が5歳のときに交通事故で亡くなった。

パパは男手ひとつで私を育ててくれたの。

仕事が 忙しいのに頑張って早く帰ってきてくれたり、参観日もできるだけ見に来てくれた。

ママが居なくて寂しいけど、パパが一生懸命に私に愛情を注いでくれてるから大丈夫。

友達は自分のパパを「ウザい」とか言ってるけど、私はパパが大好きなんだ。

パタパタと玄関まで走ってパパを迎えに行く。

カチャッとドアが開いてパパが顔を覗かせた。

「パパっ!お帰りなさいっ!」

私は嬉しくてパパに抱きつくと

「ただいま、葵。」

パパはとても優しい笑顔で答えてくれた。

「おっ、晩ご飯はカレーライスか?葵のカレーは美味いからなぁ、楽しみだ。」

と言って私の頭を優しく撫でてくれる。

「すぐに準備をするから、パパは手を洗ってきてね。」

私が洗面所を指差しながらパパに言うと、パパが「了解」と言って手を洗いに行く。

パパは38歳のおじさんなんだけど、 ジャ○ーズ系の顔で見た目がメチャ若い。

私とパパが2人で出かけると、よくカップルに間違えられるんだ。

イケメンだから逆ナンとかもされる事があるみたい。

「うおっ、美味そう。では、いただきます。」

手を洗って部屋着に着替えたパパが、椅子に座り手を合わせる。

パクッと、一口カレーを食べて「美味いっ。」と言ってくれる。

パパが美味しいって褒めてくれるのが嬉しくて、私は幼い頃から料理の勉強を一生懸命にしてきた。

今では得意分野であり趣味でもある。

私達は今日の入学式の事、友達が出来た事とかを話しながら楽しく夕食の時間を過ごした。

食器の片付けが終わって、パパにはコーヒー、私には紅茶を淹れてリビングに持っていく。

ソファに座っているパパに「はい」と言ってコーヒーを渡した。

「ありがとう」と笑顔で言ってくれる。

でも…

その後すぐにパパの表情が硬くなった。

コーヒーをテーブルにそっと置いてから、パパが私の方を向く。

「今日は、葵に大事な話しがあるんだ…。」

「……なに?」

私も持っていた紅茶をテーブルに置き、パパの方を見る。

「急な事で申し訳ないんだけど…。」

珍しくパパの口がとても重たい。

よほど言いにくい事なんだ…。

私はドキドキしながらパパの言葉を待った。

「…今日、辞令が出てニューヨーク支社へ転勤になった。準備が出来次第、すぐにむこうへ行かなくてはいけないんだ。」

「…………。」

予想外な重大発表すぎて、何も言葉が出てこないよ…パパ…。

「ごめんな。………あともう一つ報告があるんだ。」

今度は頭をガシガシと掻きながら、少し眉間にシワを寄せているパパ。

まだこれ以上の発表があるの⁇

私はすぅと深呼吸をして「どうぞ」とパパに合図をする。

パパもすぅと深呼吸をしてから話し出した。

「葵も知ってる、美咲さん。彼女と結婚したいんだ。できたらニューヨークへ連れて行きたいと思ってる。」

……え⁈

え??

「えーーーーっっ‼︎」

驚いて思わず大きな声が出てしまった。

パパは真っ赤な顔をして、また頭をガシガシと掻いている。

うそっ⁈

結婚っ⁈

美咲さんと付き合ってるのは知ってるけど…

まさか、結婚だなんて…。

「葵は入学したばかりだから、パパと一緒にニューヨークに行くのは嫌かな?」

ハハ…と苦笑いしながらパパが言った。

正直、頑張って入った学校だから辞めるなんて事はしたくない。

それより…

パパと美咲さんの…結婚は……………

今はまだ、考えられない。

パパには、もちろん幸せになって欲しい。

美咲さんは手に職をちゃんと持っていて自立もしていて、とても綺麗で優しくて…とても素敵な人。

私も大好きな人。

でも、パパが美咲さんと結婚したら…

私はきっと

ひとりぼっちになる。

だって、私は………………

「ごめん、結婚の話しは早過ぎたな。その話しは忘れてくれ。」

黙り込んでしまっていた私に気を遣い、パパは結婚話を取り消した。

「…ごめん、パパ。転勤の事も結婚の事も少し考えさせて。」

私はそれだけをパパに伝えて自分の部屋へ閉じこもった。


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