オオカミくんと子ブタちゃん
安心と嫌悪
宿舎に着き、それぞれ割り当てられた部屋へ入っていく。
私と優衣は同じ班なので、もちろん一緒の部屋。
皆んなそれぞれ必要な物を鞄から出し始めている。
優衣も私から距離を取り、背を向けて鞄をゴソゴソとしていた。
いつまでも、こんな空気……
堪えられないよ…
「優衣…ちょっといい?」
勇気を振り絞って優衣に声をかけ、人気のない非常階段へと連れ出した。
優衣は相変わらず私を見ようとしてくれない。
「私とパパに血の繋がりがないこと、優衣にとってそんなに嫌なことだった?」
単刀直入にきいてみる。
ズキンッ………
「血の繋がりがない」そう言う度、言われる度に、心が引き裂かれそう…。
でも、優衣は大切な友達。
言いたくない言葉を言ってでも、優衣と離れたくないし、失いたくない。
優衣がなぜ、こんな態度をとるのかを私は知りたい。
俯いていた優衣が顔を上げ、私に鋭い視線をぶつける。
「……っ、被害者ぶってる葵に腹がたつ。アンタのせいでっーーー…。」
そこまで言って、優衣はキュッと口を閉ざしてしまった。
「…私の…せいって、どういうこと?」
全てを知りたくて聞き返したが、優衣はキュッと一文字に唇を結んだまま、非常口のドアノブに手をかけ出て行こうとしている。
「優衣っ、何が私のせいなの?」
ドアノブにかかった優衣の手に自分の手を重ね引き止めた。
「……離して。」
苦しそうな優衣の声を聞いて胸が痛くなり、私は重ねていた手をそっと離す。
バッとドアを開け出て行った優衣の後ろ姿を、私は突っ立ったまま、ただ見送る事しか出来なかった。
力が抜け壁を伝いその場に座り込んだ私。
もう…どうしたらいいのか分からないよ。
私は両膝を抱えてうずくまる。
「何してんだ?この馬鹿子ブタ。」
「…………………………。」
頭上から聞こえてくる毒舌に、いつもなら反応する私も、今はそんな気力さえおきなくて頭を伏せたままでいた。
暫くして、ふわぁっと温かいものに身体が包み込まれる。
気が付けば私は大賀見の腕の中にいた。
「ちょっ⁈離してっ。」
「嫌だね。暴れんな、馬鹿。」
暴れる私を大賀見は両脚の間に入れ、片手を背中に回し、もう片方の手で私の頭を自分の胸に引き寄せる。
「いいから、じっとしてろ。」
抵抗する力も尽きて、私は大賀見の温かい腕の中に大人しく収まった。
「今、お前がゴチャゴチャ考えてること、俺に吐き出しとけ。」
大賀見の優しい声と、トクン、トクン、と規則正しい心臓の音に安心する。
その安心感で気が抜けたのか、私は堰を切ったかのように口を開いた。
「…私、優衣に嫌われたかも。
他人の男の人と一緒に住んでるなんて…気持ち悪いよね?
でも、パパは本当に優しくていい人なの。
ーーーーーーー………
私があの時…
パパの手を選ばなければ、パパはなんの気兼ねなく結婚もできて、きっと幸せになってた。
全部……私が悪いの。」
涙が零れそうになるのを私は必死に堪えながら吐き出した。
「気持ち悪くねぇし、お前も悪くねぇよ。だけど…キツイなら俺に寄りかかれ。もっとお前は人に甘えて生きることを覚えろ。」
自信満々に言い切った大賀見の言葉が、私の罪悪感を軽減し、更に安心感を与える。
私がホッとした表情を見せると、大賀見は優しい笑顔を見せた。
その笑顔に思わずドキッとする。
こんな顔も出来たんだ///
なんて思っていると………
前髪がそっとよけられ、大賀見の顔がどんどん近づいてくる。
「な、なにっ///?」
………コツンッ
私と大賀見の額が合わさり、大賀見のサラサラとした髪が私の頬をくすぐる。
「やっぱり…。」
そう言われたと思ったら、フワッと私の身体が宙に浮いた。
「お、お、下ろしてっ///」
「嫌だね。」
「お姫様抱っこなんて恥ずかしいっ///」
「前に涼介にされてただろ。」
「あ、あれは……///」
思い出したら恥ずかしくて、ゴニョゴニョと口籠ってしまう。
「とにかく黙って大人しくしてろ。今のお前はお姫様じゃなくて、ただの病人だ馬鹿。」
そう言って軽々と私を抱き上げたまま歩き出す大賀見。
「???」
私が不思議そうな顔をしていると
「お前、熱があること気付いてねぇの?」
「……⁇
なんとなく変だなぁとは思ってたけど……?」
「どんだけ鈍いんだよ。」
はぁ…と、ため息をつきながら大賀見が下を向いたので自然と視線がぶつかってしまった。
「っ///。こっち見んな、馬鹿。」
大賀見はすぐに私と視線を外して、向こうを見てしまう。
「…なんで?」
熱が上がったのか、私はさっきから頭が上手く働かずボーとしていた。
「なんでって…お前、顔がヤバイんだよっ///」
「顔が…ヤバイ?」
どういう意味?
ブサイクってことかな?
う〜ん…………?
なんだかクラクラして目が回る?感じがする……
「いいから、お前は安心してぶっ倒れてろ。」
その言葉を聞いてから、だんだん大賀見の声が遠くなっていき私は気を失ってしまった。