オオカミくんと子ブタちゃん
*****

大賀見と相沢さんが出て行ってから暫くの間、ボーと木目調の天井を眺めていた。

桃缶を食べて少し口の中が冷んやりとしたけど、熱のせいですぐに元の状態に戻る。

喉が渇いたので枕元に置いてあるペットボトルのお水に手を伸ばした。

「あ…薬も置いてくれてる。桃缶食べたし、飲んでもいいよね?」

私はお水と一緒に用意されていた風邪薬を飲んでから、再び布団に寝転ぶ。

薬が効いてきてウトウトとし始めた頃

トントン…

入り口のドアがノックされて、誰かが部屋に入って来た。

大賀見?

もう帰って来てくれたのかな?

さっきの出来事を思い出して、また心臓がドキドキしてきた。

どんな態度をとったら良いのか分からないよ///

スッと襖が開けられ姿を見せたのは…

「葵ちゃん、大丈夫ー?」

「…白…咲くん?」

私は布団から、フーと熱い息を吐きながら重い身体を起こし座る。

「葵ちゃんが寝込んでるって聞いたからさー。」

「よいしょっと」と言いながら、私の隣に腰を下ろした白咲くん。

なんだか…元気がないように見える。

声はいつもの高いテンションのままなんだけど…表情がなんとなく暗い?

「キャンプファイアーに参加出来なくて、残念だったねー。」

白咲くんはパッといつもの笑顔を私に見せた。

気のせいだったかな?

「外はどんな感じになってるの?」

私は熱でボーとしながら質問をした。

薬がどんどん効いてきて、眠気を誘い、思考回路を緩めていく。

「もう、滝沢くんの周りに女の子がわんさか居てさー、大変そうだったよー。
春斗くんも引っ張りだこで、超不機嫌そうだったー。」

やっぱり、あの二人は人気者なんだなぁ…。

大賀見がキャンプファイヤーに参加してくれて良かった。

女の子達はみんな勇気を振り絞って告白しようとしてるのに、私が独占するなんて許されないもんね。

そういえば、優衣はどうしてるんだろ?

普段から凄くモテるからきっと…

「きっと、優衣の周りにも沢山の男の子がいて困ってるんだろうね。」

「………………。」

「白咲くん?」

急に黙ってしまった白咲くんを、不思議に思いジッと見上げる。

どうしたんだろ?

やっぱり、今の白咲くんは変だよね?

「どうしたの?白咲くん?」

私を見つめている白咲くんの顔は、なんだか辛そうに見える。

「…葵ちゃんってさ、超無防備だよね。」

「え?」

いつもの口調ではない白咲くんに、違和感を覚える。

ドサッーー

「痛っ‼︎」

気が付けば白咲くんに押し倒され、両手首を頭の上でガッツリと床に押さえつけられていた。

大きな手で掴まれた手首は、片手で押さえられているだけなのに、私の力ではビクともしない。

急に白咲くんのことが怖くなった。

「イヤッ!離してっ‼︎」

そう叫んだつもりなのに、今の私から出た声は、恐怖と熱の所為でとても弱々しいものだった。

「それって逆効果だよ、葵ちゃん。熱で潤んだ瞳にその息づかい…煽ってるとしか思えないよね?」

「違うっ!」

「静かにしてよね。その可愛い唇、塞いじゃうよ?」

「イヤッ……んっ。」

もう片方の手で口を塞がれ、白咲くんの唇が私の首筋に触れる。

チクッ…

鈍い痛みが首筋に走り、白咲くんの唇がどんどん下へと移動していく。

「んーんーっ‼︎」

助けを呼びたいのに口を塞がれていて言葉が出ない。

≪助けてっ大賀見っ‼︎≫

私は心の中で大賀見の名前を呼んでいた。





「何やってんだっっ‼︎」






ガツッーーー



私の上にあった白咲くんの体が宙に浮き、鈍い音と共に後ろへ倒れ込む。

私が震えながら身体を起こした瞬間、大賀見が馬乗りになって、白咲くんを殴っている光景が飛び込んできた。

止めなきゃ……

早く大賀見を止めなきゃっ!

「大賀見っ、やめてっ‼︎」

私は全ての力を振り絞って声をあげ、大賀見を後ろから抱きついて止める。

「なんで止めるんだよっ!離せっ‼︎」

「お願いっ、やめてっ!……ヒック…」

何が何だか分からなくて、パニック状態の私は無意識のうちに泣いていた。

私の涙に気付いた大賀見は、掴んでいた白咲くんの胸ぐらを離し解放する。

白咲くんが立ち上がり、私の方を一度見て、またすぐに目を逸らした。

そして、

「…ごめん」

私にしか聞こえない消えてしまいそうな声で、謝ってから部屋を出て行く。

「逃げんなっ!白咲っ‼︎」

「行かないでっ、大賀見!」

立ち去る白咲くんを追いかけようとする大賀見の腕を私は必死に引き止めた。

「一人にしないで…お願い…。」

急に足の力が抜けてその場に座り込んでしまう。

「大丈夫か?」

大賀見は私を労わるように優しくそっと抱きしめてくれた。

「遅くなってゴメン…。守ってやれなくて、本当にゴメンな。」

とても苦しそうな大賀見の顔を見て、私も苦しくなる。

何言ってるの?

大賀見は私を守ってくれたよ。

来てくれて、ありがとう。

思った事を言葉に出せないまま、一度ぎゅっと大賀見を抱きしめてから、私は意識を手放した。

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