オオカミくんと子ブタちゃん

私の気持ち



静かな夜、窓の外からは「ジー…」と虫の鳴き声だけが聞こえてくる。

俺は眠っている子ブタの前髪にそっと触れ、額に手を当てた。

「まだ、少し熱いな…。」

子ブタの熱を理由に、俺たちはオリエンテーションから一足先に家に戻って来ていた。

先生達は俺らの同居を知っていたので、家に誰も居ないと話すと、すんなり俺も一緒に帰る事を了承してくれた。

涼介のヤツも心配して一緒に帰りたそうにしてたが、さすがにそれは無理だったので諦めて現地に残っている。

涼介にだけは白咲が子ブタにしたことを報告しておいた方がいいと思い、今夜あった事を話した。

アイツがあんなにブチ切れた姿を見るのは、長年一緒に居るが今日が初めてだった。

今にも白咲の所へ行ってぶん殴りそうな雰囲気だったので、涼介を宥めてから帰って来たが大丈夫だろうか?

それにしても、白咲はなぜ子ブタにあんな事をしたんだ?

俺が殴っても全く抵抗せず、白咲はただ大人しく殴られているだけだった。

普通は防御、もしくは殴り返してもおかしくないはずだ。

自らの意思では無かったって事か?

ひょっとして、誰かに頼まれてした事なのか?

だとしたらーーーーーーーー

頼んだヤツって………




ーーー サ ワ グ チ マ リ カ ーーー



俺の頭の中に、すぐ浮かんだ名前……

あの女が白咲を使って、子ブタを襲わせたのか⁈

あの女…マジで許せねぇっ‼︎








「……ん 、、、大賀見?」

子ブタがゆっくりと目を開け、俺の方を見上げる。

「悪い…起こしちまったか?」

「ううん…。それより、ここって家だよね?
あれ?オリエンテーションは?」

「お前の熱がなかなか下がらないから、連れて帰って来たんだよ。
体調はどうだ?少しは楽になったか?」

俺はまだボーとした様子で、寝転んだままの子ブタの頭をそっと撫でる。

「体調は少し楽になった様な気がするけど……大賀見まで帰って来て良かったの?」

俺を見上げたまま眉を下げ、申し訳なさそうな顔をする子ブタ。

「は?当たり前だろ。なんでそう思うんだよ。」

お前を一人にするわけねぇじゃん。

「だって…キャンプファイヤーのジンクス で、沢山の女の子たちが……待ってるって…。」

何言ってんの?

お前以外の女なんて俺には興味ないのに…

あの時、お前が行けって言ったから仕方なく行っただけで、今は…すげぇ後悔してる。

あんな事になるなんて思ってもいなかった。

お前の傍を離れるべきじゃなかった。

「関係ねぇよ。俺にとっては、お前の方が大事。」

俺はベッドに寝ている子ブタの頬を、壊れ物を扱うかのように、丁寧にそっと手で触れ、白く細い子ブタの首筋に視線を移す。

白咲が残した"印(しるし)"に、胸が張り裂けそうになった。

頬に当てた手で子ブタの髪を梳き、その流れのままベッドに手をつく。

子ブタの顔の両側に手をつく状態で、俺と子ブタは正面から見つめ合った。

「…お前、俺のこと怖い?」

「な、なに?急に…///」

突然の至近距離に、男に免疫のない子ブタは焦っているようだ。

「俺のこと、怖いと思うか?」

もう一度、聞いてみる。

子ブタは、ゆっくりと顔を横に振り、

「全然、怖くないよ。」

ふんわりと柔らかく笑った。

「じゃあ…さ、俺に上書きさせてもらえないか?」

「え?何を?」

相変わらず、鈍感なやつ……。

俺は子ブタの首筋にそっと触れ、親指で"印(しるし)"をなぞる。

どうやら言ってる事が伝わったみたいで、ビクッとして、赤く染まった顔を両手で覆いながら、

「お、大賀見だったら…いいよ。」

と横を向き首筋を露わにした。

「優しくする…嫌だったら逃げろよ。」

本来なら、子ブタの心のケアをしないといけないはずなのに、俺の中の独占欲が言うことを聞いてくれない。

他の男がつけた"印(しるし)"なんて、見てられなくて…

出来るものなら、俺が消してしまいたい。

俺はいつでも子ブタが逃げれるように、ゆっくりと顔を近づけていく。

子ブタの頬に俺の前髪が触れるところまで来たが、逃げる気配はなかった。

露わになった白く細い首筋に、そっと唇を当て"印(しるし)"に上書きする。

甘い香りが俺を誘惑する……やばい///

俺は理性が吹っ飛ぶ前に子ブタから離れた。

「あ、ありがとう…大賀見///」

恥ずかしいのか、子ブタは顔を覆ったままの状態でお礼を言ってきた。

なんか…お礼を言われるなんて変だよな?

俺はしたい様にしただけなのに。

「…ばぁか。」

「せっかく、お礼を言ってるのに馬鹿って何よっ。」

顔を覆っていた手を離し、拗ねた顔で俺を見上げる。

っ///

無防備にそんな顔してたら…襲うぞ?

「とにかく、お前は大人しく寝てろ。わかったな?」

「…うん、わかった。」

子ブタの頭をクシャッとしてから、俺は部屋を出て行く。

パタン…

「無防備すぎる…あいつ、マジでタチが悪りぃな///」

俺は、閉めたドアにもたれかかり呟いた。

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