オオカミくんと子ブタちゃん
*****

昼飯を食ったあとも子ブタはまだ微熱があった。

食欲もあって元気だけど、念のため部屋で大人しく寝かせている。

「今日の晩飯は、どうすっかなぁ…」

俺がリビングのソファーに寝転がり、スマホで調べていると

「ハルの言葉とは思えないね。」

ヒョイッと見慣れた顔がソファーの陰から出てきた。

「涼介、もうちょっと物音たてて入って来いよ。いつもインターホンならさねーんだからよ。」

「ははは…気をつけるよ。
ところで、小辺田さんの具合はどう?熱は下がった?」

キョロキョロと子ブタの姿を探す涼介。

やっぱり、子ブタの事が心配で来たんだな。

デッカイ荷物を持ったまま来やがって…

学校に着いてそのまま急いでここに来たって感じだな。

「だいぶん下がったけど、まだ微熱がある。今は薬飲んで部屋で寝てるよ。」

俺は体を起こしソファーに座りなおしてから二階を指差す。

「そっか…。あのさ、彼女…ちゃんと笑えてる?」

眉を下げ不安気な顔をしている涼介。

「…今朝は少し笑ってたけど、アイツ気が強ぇからな。平気なフリしてるだけかも?色んな事があり過ぎて、整理できてないだろうし…。」

「ほんと…色んな事があり過ぎたよね。
…………白咲がやった事は、まだ誰にも知られてないよ。
白咲をどうするかは彼女が決める事だと思ったから、僕も先生方には言ってない。
本当はボコボコに殴って再起不能にしてやりたかったよ。」

涼介は下を向いてグッと拳を握り、怒りを必死に抑えているみたいだった。

「はは…涼介が殴ってる姿なんて超レアだな。」

「僕だって好きな子が、あんな事されたら殴るよ。当たり前だろ?」

そう言ってから、少し間を置いて涼介が俺に視線を戻す。

「……ハルには一応報告しておくよ。
僕、小辺田さんに告白したから。返事はまだもらってないけどね。」

涼介はフッと少し笑いながら言った。

マジか…。

いつの間に告白したんだ?

子ブタのやつ、そんな素振りは全くして無かったぞ…。

「……俺には、関係ないよ。」

そう…俺には関係ないことだ。

アイツはきっと涼介の事が好きだと思う。

前に教室からグランドにいる涼介を幸せそうに眺めてたのを見た事がある。

これで両想いになったんだな……。

良かったじゃん。

アイツ…強いようで弱いから、涼介が傍にいてくれたら支えてもらえるじゃん。

まぁ、素直に甘える事はしなさそうだけどな。

………………………………。

なんか胸のあたりがチクチクして気持ちわりぃ…。

こんな気持ちは初めてだ。

どうやって処理したらいいのか、わからねぇ……。

「………ル…」

「ハルッ。」

涼介に呼ばれていることに気付きハッと我に返った。

「……っ⁉︎なんだよっ。急にデカい声出すなよ、涼介。」

「何回も呼んでるのにハルが気付かないからだよ。」

はぁ…と、ため息混じりに俺を見ながら涼介が言った。

「わりぃ…。」

「はは…、ボーとしてるなんて珍しいね。」

涼介が俺の頭にポンとしてから、隣に座って真剣な顔で話し始めた。

「実は昨日、ハル達が帰ってから白咲を殴ってやろうと思って呼び出したんだ。
でも、なんかアイツ凄い辛そうな顔しててさ。
何であんな事したんだって問いただしたけど、黙ったままで何も言わなかったんだ。
ーーで、先生に見つかっちゃって、その場はなんとか殴るのを我慢して部屋に戻ったんだけど、その時、ちょうどキャンプファイヤーの話で盛り上がっててさ。
友達が白咲が誰かに告白してたって言ってたんだ。」

「その女って誰だよ。」

「僕も何人かに聞いてみたんだけど、みんな顔は見えなかったらしくて誰かはわからないんだ。」

「そっか…。
なぁ、好きな奴がいて他の女を襲うなんてこと普通はないよな?
俺が白咲を殴った時、アイツは一切、抵抗してこなかったし、逃げようともしなかった。
おかしくないか?」

「それって…その女の子が原因ってこと?」

珍しく涼介が眉間にシワを寄せながら言った。

「その女が子ブタに恨みを持ってて、自分に惚れてる白咲を使って子ブタを傷付けたんじゃないかと俺は思ってる。」

「恨みを持ってる子って………沢口さんってこと?」

「証拠がないから、わからねぇ。でも、そいつしか思い浮かばねぇんだよな。」

俺たちは黙り込み、リビングに静寂な時間が流れた。






「小辺田さんの様子を見てきていいかな?」

暫くしてから涼介が口を開いた。

「別に俺に断り入れる必要はねぇよ。まだ寝てるかもしれねぇけど行けば?」

「相変わらず素直じゃないねハルは。
じゃ、お言葉に甘えて寝顔でも見てくるよ。」

涼介はスッとソファーから立って、子ブタの部屋がある二階へと上がって行く。




「…お前らが両想いなのわかってんのに、俺がアイツの事好きだとか言えるわけねぇじゃん。バカヤロー…」



俺の言葉は誰にも聞かれずに静かに消えていった。

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