オオカミくんと子ブタちゃん
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今日の休み時間は思いのほか忙しかった。

なぜかと言うと、茉莉花ちゃんと相沢さんがそれぞれ謝りに来てくれたからだ。

まさか、茉莉花ちゃんが謝ってくれるとは思っていなかったから少し驚いた。

グチャグチャとした嫌な気持ちが少しずつ解消されていく。

チラッと隣の席の大賀見を見てみる。

また、いつも通り机に突っ伏して眠っている。

相変わらず綺麗な寝顔……

こんな超イケメンが、私に気があるかも?なんて少しでも思った自分が恥ずかしい。

そんなわけないじゃんね。

バカだなぁ…わたし………。

大賀見から180度視線を移し窓からグランドを見る。

ザー、ザー、と凄い勢いで雨が降っていた。

今日のお昼はどこで食べるんだろ?

さすがに屋上は無理だよね?

大賀見はいつも通り私達と一緒にお弁当を食べてくれるのかな………?

そんな事を考えていると、いつの間にかお昼休みがやってきた。

ガタン…

大賀見はチャイムがなるなり席を立ち教室を出て行こうとする。

「ちょっと待ちなさいよ。」

優衣が大賀見の腕を掴んで引き止めた。

「アンタどこに行くつもりぃ?」

「どこって、別に。」

「そ、ならいいんだけどぉ。一緒にお昼食べるよね?」

ニッコリと微笑む優衣だけど目が一切笑っていなかった。

「チッ、わかってるよ。」

不機嫌な大賀見の態度に胸がズキンとなる。

しばらくして滝沢くんが来たので、私達は教室を出て、今朝、優衣と一緒にいた場所へ向かう。

屋上に出るドアの前は少し広い踊り場になっているので、私達はそこでお弁当を食べる事にした。

受け取ってくれるか不安で緊張しながら「はい。」と大賀見にお弁当を渡すと

大賀見は「ん、さんきゅ。」と言って、お弁当を受け取り胡座をかいて座った。

受け取ってくれた事に、ホッと胸を撫で下ろす。

そんな私達の様子を見て滝沢くんは変に思ったみたいで…

「ハルも小辺田さんもどうしたの?なんか変だよ?」

「別に、いつも通りだろ。」

大賀見が面倒くさそうに返事をする。

「大賀見が葵に、滝沢くんに大事にしてもらえって言ったんだってぇ。」

優衣がまたもや、あの恐ろしい笑顔で言った。

やっぱり目が笑っていない…。

「ちょっ、優衣。」

私は優衣に「それ以上は何も言わないで」と視線を送る。

「わかったわよぉ。」

優衣は納得してない顔をしたが、それ以上は何も言わないでいてくれた。

「ふーん、僕に小辺田さんをくれるんだ?」

くれるって滝沢くん…私、物ではないのですが………。

「じゃ、何してもいいんだよね?」

キラキラスマイルで私の方へ近づいてきたかと思うと、後ろへまわり私を囲い込むように座ってぎゅっと後ろから抱きしめた。

「えっ、た、た、滝沢くん⁉︎///」

えっ?えっ?えっ⁇

なんか髪の毛クンクンされてますけど⁉︎

「やっぱり、小辺田さんて甘くていい香りがするね。」

滝沢くんが私の髪をクルクルと指で弄びながら言った。

「髪も艶々だしサラサラしてて気持ちいいね。」

優しく甘い声で言いながら、後ろから私の顔を覗き込んでくる滝沢くん…………………………

…………………………の唇が

チュッ…

小さなリップ音とともに私の頬に触れた。

「☆**☆っ///⁉︎⁉︎」

驚きのあまり言葉にならない言葉が口から出る。

「あはは、それ何語?可愛いなぁ、小辺田さんは。」

滝沢くんは再度ぎゅっと私を抱きしめる。

「…………ねぇ、ハルもそう思うでしょ?」

滝沢くんの顔が見えないから分からないけど、とても挑発的な言い方だった。

「………なせよ。」

「なに?ハル。」

「そいつを離せよ、涼介。」

そう言って大賀見は滝沢くんの腕をほどき、私を抱き上げ立たせると手をぎゅっと掴み階段を下り始めた。

「ちょ、大賀見⁈なに?どこ行くの⁇」

「いいから、黙ってついて来いっ///」

前を向いたまま大賀見が答える。

わけが分からず振り返り滝沢くんと優衣を見ると、二人ともなぜか笑顔で手を振っていた。

なんなの?一体?

わけが分からないまま大賀見に引っ張られて来たここは………

資料室。

ガラッとドアを開け薄暗い教室に入ると、そこには沢山の本棚があって真ん中に大きなテーブルといくつもの椅子が置いてあった。

「すごいね…資料室って初めて入ったよ。」

「…………………………。」

「大賀見?」

手を繋いだまま、ずっと黙っている大賀見が不思議でキョトンとして首を傾げると、大賀見はとても切なそうな目で私を見つめてきた。

「な、なに///?」

じっと見つめられて恥ずかしくなった私は慌てて視線を逸らす。

すると突然、ぐいっと繋いでる手を引っ張られて暗く視界が閉ざされた。

腰にまわされた暖かい大きな手…

気がつけば、私は大賀見の腕の中にすっぽりと収まっていた。

「やっぱり、お前を手放せない。」

ぎゅっと更に力を入れ私を抱きしめる大賀見。

なに…それ…

「大賀見、離して。」

「嫌だ。」

ぐっと大賀見の胸を力一杯に押したけどビクともしない。

腹が立って今度は胸をドンドンと叩く。

だって………………

「昨日は私を突き放したくせにっ!なんでよっ、なんで……今日はこんな事するのよ!」

私は悲しくて胸が痛くて痛くて仕方なかったんだよ。

大賀見の気持ちがわからないよ……

突き放したんだから、私のことなんて何とも思ってないんでしょ?

だから………………

「大賀見の言う通り、滝沢くんに大切にしてもらうんだからっ離してっ!」




「お前の事が好きなんだよっ。」




ーーーーーーーえ?

何て言ったの?

私は自分の耳を疑った。

「……え?」

「だから………お前の事が好きだって言ってんだよ///」

大賀見がふっと抱きしめていた腕を緩めた。

「な、な、なに言っ…ゴモゴモ「シッ、静かに。」」

突然、口を塞がれ本棚の陰に引きずり込まれた。



ガラッ…………

「誰かいるのか?」

教室のドアが開き先生が中を覗き込んできた。

「気のせいか……」

ガラッ…………

誰もいないか教室を見渡した先生は、確認した後すぐに出ていった。

「ふぅ……ヤバかった。」

大賀見が小さく息を吐いた。

「ゔー、ゔー……」

「あ……悪りぃ。」

私の口を塞いだままだという事に気付いた大賀見はやっと手を離してくれた

ーーーーーーーのは…いいんだけど………

なんなのっ⁉︎

この体勢はっ///⁉︎

壁ドン⁈いや…厳密に言うと棚ドン。

身体がピッタリと密着していて顔も超近い。

あまりの密着度にドキドキと心臓が早くなっていく。

それなのに………

コツンと私と額を合わせた大賀見。

ただでさえ、この状況に心臓がついて行けそうにないのに

「俺…さっき涼介からお前を奪い取るって決めたから。覚悟しろよ。」

だなんて、私の心臓壊す気ですかっ///

「な、なに言って「シー…。」」

大賀見の綺麗な長い指が私の唇に当てられた。

見つめ合ったまま暫く時が流れる。

唇に当てられていた指が私の顎へと移され、くぃっと持ち上げられた。

「嫌なら逃げろ。」

そう言って少しずつ距離を縮める大賀見…

私はドキドキしながら、そっと目を閉じた。

唇に柔らかく暖かい感触…

そっと触れるだけのキスをして、大賀見は少し驚いた顔で私を見つめる。

「逃げなくて良かったのかよ?お前、涼介が好きなんだろ?」

思いもしなかった事を言われ、私は瞬きさえも忘れて大賀見をじっと見上げた。

どうしてそうなるの?

なぜ、大賀見がそう思っているのか分からないけど、今、私の気持ちを伝えなきゃいけない気がした。

私はドキドキとしている胸に手を当て深呼吸をする。

そして

「私、大賀見のことが好きなの///」

ぎゅっと目を瞑って人生初の告白………。

「…………………………。」

え?まさかの無反応?

私、相当な勇気を振り絞って気持ちを打ち明けたんだけど…

そっと目を開けて大賀見を見上げる。

ーーーーーーーーーーー///⁉︎

うそ…………

私の視界に入ってきたのは、片手を棚についたまま、もう片方の手で口を覆い耳まで真っ赤になった大賀見の姿だった。

こんな大賀見、初めて見た。

なんだか、すごく可愛い///

「耳まで真っ赤な大賀見って可愛い。」

「う、うるせぇよ///お前が予想外なこと言うからだろ?」

「予想外?」

「俺は、涼介とお前は両想いだと思ってたんだよ。覚悟決めて略奪してやるつもりだったのに、まさか俺の勘違いだったなんて…。」

大賀見は「あーっ!」と言いながら前髪をクシャクシャとした。

「勘違いってことも無いかも?私の初恋は滝沢くんだもん。」

「は?」

ピタッと大賀見の動きが止まった。

「だから、私の初こぃ……んっ…あ…。」

突然、大賀見に唇を塞がれ上手く息が出来ない。

さっきとは全く違う濃厚なキス……。

深くて熱くて甘くてトロけてしまいそう。

私は立っていられなくなって床に座り込んでしまった。

「ふ…ふぁ…。」

やっと唇を解放され、私は酸素を吸い込む。

「さっき、何て言った?ん?もう一度、言ってみ?」

大賀見はペロリと自分の唇を舐めながら笑顔で言ったが、その目は「もう一度言ったらまた口を塞ぐぞと」言わんばかりだ。

「も、もう言わないょ。」

今日、大賀見が意外にヤキモチやきなS男なのだと知った。

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