オオカミくんと子ブタちゃん

幸せなひととき



「涼介のやつ、マジでムカつくぜ。」

学校から帰ってすぐに大賀見はソファにドカッと座った。

どうやら、ご機嫌ななめのようだ。

髪をクシャクシャとしたり、フーッとため息をついたりで、かなりイライラしてる様子。

私が、そーっと自分の仕事をしにキッチンに入ろうとしたら…

な、なんだか背中に視線を感じるのは気のせいでしょうか?

ゆっくりと振り向いて見ると、ソファから大賀見がこちらをジッと見ていた。

私と視線が合うと、今までに見たこともない爽やかな笑顔で手招きをしてくる。

恐る恐るソファに近づくと、ぐいっと体ごと持ち上げられ大賀見の両脚の間に座らされた。

私の肩に顎をのせ、後ろからぎゅっと抱きしめる大賀見。

スキンシップが、どんどん増えてきてる様な気がする…。

「大賀見?」

私が後ろを向いた瞬間……

チュッ…

左頬に柔らかい感触とリップ音。

「な、なに///?」

「………さ…てん…だよ。」

「え?」

ボソッと言った大賀見の言葉が小さ過ぎて聞き取れない。

また、ぎゅっと後ろから抱きしめられた。

さっきより少し力が強い……

「なに簡単にキスされてんだよ…バカ。」

えっ、なに⁈

まだヤキモチ妬いてたの⁉︎

「プッ…あはは///大賀見ってば独占欲強すぎっ。」

どうしようっ。

すごく嬉しいっ///

ヤバイっ、顔がニヤけちゃう///

「なに、笑ってんだよ///」

「だって…大賀見が可愛いすぎるから。ふふ…。」

「………………………。」

あれ?無言?

ひょっとして怒っちゃった?

大賀見の顔を見ようと、そっと振り向こうとしたら

「きゃっ⁉︎」

後ろから体ごと押されソファからカーペットに落とされた。

ーーーーーと思ったら

あっと言う間に押し倒され、身体を反転させられ組み敷かれていた。

「誰が可愛いって?」

片方の口角をあげ、意地悪な微笑みを見せる大賀見。

ゾクゾクとするほど綺麗で、自然と見惚れてしまう。

私の手が無意識に伸びて、サラサラとした大賀見の前髪に触れる。

初めて触れた大賀見の髪は思ったより柔らかかった。

「お前…誘ってんの?」

大賀見の言葉にハッと我に返った私は、自分のしている事が急に恥ずかしくなって、手を引っ込めようとするが

パシッ…

簡単に手を捕らわれ床に押し付けられた。

ドキドキと早くなっていく鼓動…

吸い込まれてしまいそうな大賀見の妖艶な瞳…

二人の距離が少しずつ近づき

そして………

優しく唇が触れ合った。

白咲くんに押さえつけられた時は、とても怖かったけど、今は全く違う。

ドキドキと落ち着かない鼓動でさえも、相手が大賀見だと心地いいとさえ思えてしまう。

唇が離されていくと、愛しさや寂しさが込み上げてきて

「大好きだよ。大賀見…。」

自然と熱い想いが言葉として出てきた。

大賀見は驚いたように目を見開いたあと、私の耳元へ顔を近づける。

「お前、あんま俺を煽んなよ…。我慢できなくなるだろ?」

「あ、あ、煽ってなんてないよっ///。」

そんなつもりが無かった私は、慌てて訂正をした。

「黙れ…。」

……かぷっ

「ひゃっ///。」

大賀見に耳を甘噛みされ、変な声が出てしまった私。

ただでさえ顔も熱く心臓もドキドキしているのに

「俺もお前が好きだ。」

耳元で甘く囁かれ、心臓が壊れそうなくらいに跳ね上がった。

あの妖艶な瞳に再び釘付けになり、身動きひとつ出来なくなる。

「もう、止められねぇから…。」

そう言って私の唇を奪った。

何度も角度を変え重ねられる唇…

「……んっ………ぁ、おぉ…がみ…」

必死でついていこうとするけど、上手く息ができない。

「名前で呼べよ?」

次第に深くなるキスに翻弄され、何も考えられなくなっていく。

「…はる…と。」

「やべ…予想以上///」

押さえつけられていた手首がいつの間にか解放され、大賀見の手がそっと胸に触れた。

電気のようなものが走りビクンッと反応する私の身体…。

大賀見の指がブラウスに触れた瞬間ーーー

カチャッ…とリビングダイニングのドアが開いた。

「ただいまー。ハル居ないのかー?」

おじ様が突然帰ってきて、二階に向かって大賀見を呼んでいる。

おじ様は、ソファにいる私たちの存在にまだ気づいていない様子。

私と大賀見はサッと離れてカーペットに座り直した。

「おっ、なんだ二人ともそこに居たのか。」

おじ様が笑顔でこちらを向く。

「なんだよ、親父。今日に限って帰ってくんなよ。」

不機嫌そうに前髪を掻き上げながら、おじ様のいるダイニングへ行った大賀見。

な、なんでそんな普通でいられるのっ⁈

私なんて心臓がバクッバクッで、どうにかなっちゃいそうなのにっ。

衣服を整えてから、私も二人のいるダイニングへ移動する。

「相変わらず冷たいなぁ、ハルは。久しぶりに我が家に帰ってこれたのに…。ねぇ?葵ちゃん。」

おじ様が少し拗ねたように私に話しかけてきた。

「えっ?そ、そうです…ね?」

「やっぱり女の子は可愛いなぁ。このままウチの子にならない?」

おじ様がニコニコしながら、私の頭を優しく撫でてくれる。

それを見た大賀見が、私の腰をぐっと引き寄せて、私をおじ様から遠ざけた。

「コイツ、俺の女だから勝手に触んなよ。」

大賀見の言葉が信じられないのか、おじ様はとても驚いた顔をしている。

しばらくして、おじ様がアハハ…と笑い出した。

「なに、笑ってんだよ親父。」

「いやぁ、ハルが彼女を作るなんて思って無かったから私は嬉しいよ。」

おじ様は大賀見の頭をクシャクシャと撫で回す。

「お、おい、やめろって。」

「いやぁ、ハルがねぇ。あのハルが。嬉しいなぁ。」

おじ様は嫌がる大賀見の事なんて全く気にせず、ニコニコと笑顔で更に撫で回していた。

困惑している大賀見は抵抗することもなく、照れ隠しのようにチッと舌打ちをしている。

その光景がとても微笑ましく思え、私は黙ってニコニコとしながら二人を見ていた。

おじ様が突然、大賀見と私の肩を抱き寄せ

「今日は二人のお祝いだ。なにか美味しい物でも食べに行こうっ。」

そう言って、そのまま私達を高級料亭に連れて行く。

その日のおじ様は終始楽しそうにしていた。

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