笑顔のチカラ~笑う門には福来る~
目の前で何が行われているのか
何を受け止めていいのか
正直、わからなかった。
たくさんの花に囲まれて
元気な笑顔の勇生。
それ以外の勇生の姿なんて見たことなかった。
「みなさん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
マイク越しに、可愛い声が聞こえてきた。
ちょっぴり勇生の面影を残した女の子。
妹の、笑美ちゃん。
「普通は、このような場で、こんなことはしないと思うのですが、兄からの言葉として少しお礼を言わせてください」
改まった言葉を聞き、みんなが笑美ちゃんに注目した。
「兄は、初めて白血病という大病を患いました。
元気とサッカーだけが取り柄のような人でしたから、みなさんもきっと驚かれたことと思います」
少しだけ、場の雰囲気が和らいだ。
「闘病中、兄は決して弱音を吐くことはありませんでした。
逆に私の方が励まされてばかりで。
しかし1度だけ、ちょうど亡くなる2週間前、兄は初めて、治療をやめたい…と言いました。
その時の兄の顔は今でも忘れません。
病気と闘うこと、死と隣合わせで生きることがどれだけ苦しかったか……」
笑美ちゃんの言葉が詰まった。
ずっと、勇生のそばで支えてきたのは笑美ちゃん。
きっとあの子も、勇生と同じくらいの不安を1人で抱えてきたんだ。
「それでも……兄は最期まで笑顔でした。
大好きな先生と、クラスメイトのみなさんに会えてすごく嬉しそうにしていました。
そんな兄の笑顔が、みなさんの記憶にたくさん残っていてほしい。
そして、兄を思い出すときは、涙ではなく、笑顔で思い出してあげてほしいです」
勇生の笑顔……
私の記憶の中にいる勇生も、いつも笑顔だった。
笑顔がなかった勇生はいない。
きっと、それはみんな同じだと思う。
「最後に……お兄ちゃん。
最期まで病気と闘い、精一杯生きたお兄ちゃんは、私の誇りです。
今まで、ありがとう……」
彼女が彼に向けた顔は、とても綺麗な笑顔。
この兄妹は、笑顔で繋がっていた。
勇生も、笑美ちゃんも、本当に強いね。
「今まで兄を支えてくださったみなさんに、心から感謝します。
本当に、ありがとうございました」
笑美ちゃん・・・
あの子が一番辛いと思うのに、すごく立派な挨拶をしてくれた。
勇生も安心ね。
こんなにしっかりした妹さんだもん。
これからは私たちが、笑美ちゃんを支えていくわ。
「るなさん!」
「あ、笑美ちゃん。すごくいい挨拶だったよ」
「ありがとうございます…」
他に言いたいことはたくさんあるのに、上手に言葉が出てこない。
「あの、これ・・・」
そんな私を見据えて、笑美ちゃんが一通の手紙を差し出した。
2年1組のみんなへ・・・?
「もしかして、これ・・・」
「はい。お兄ちゃんからの手紙です。
読んでもらえませんか?」
やっぱり・・・
この字は、勇生だもん。
「ありがとう、確かに預かりました」
クラスメイトと学校へ向かい、谷松先生に読んでもらった。