初恋フォルティッシモ
俺は突如、仲間であるバスケ部の後藤に声をかけられた。
…なんだよこんな時に。
すると麻妃先輩の方は、突然の話の中断にうつ向いて黙り込む。
「……」
「お前さ、今日から停学ってマジ?何したんだよ、」
「うるせーなぁ。窓割ったんだよ、窓。わりぃかよ」
「いや、悪いだろ。どう考えたって」
ま、せいぜい停学ライフ楽しめよー。
そして後藤はそう言うと、部活をしに体育館へと向かっていく。
…っつか、何しに来たんだアイツは。
俺はそう思いながら、
「……あ、すいません麻妃先輩。続き、」
と、さっきの言葉の続きを聞こうとしたら、麻妃先輩は顔をうつ向かせたまま俺に言った。
「…あ、」
「…」
「……ご、めん。やっぱり、何でもない」
「え、」
「ほんと、ごめん。また今度ね!」
麻妃先輩はそう言うと、結局よくわからないまま、後藤に続いて生徒玄関を後にしていく。
定期演奏会、三島くんのぶんまで頑張るよ。
そんな言葉だけを残して。
……変な麻妃先輩、
「ふぁ…」
ソファーでじっくり過去を思い返したあとは、現実に戻って思わず欠伸がでた。
結局、麻妃先輩のあの頃の言葉の意味を、俺は未だに理解出来ていない。
『あのね、一つ言っとくけど、あたしが見てるのは不器用なサックスなんだよ』
『………二人じゃ意味ないじゃん』
どんなに考えたってバカな俺にはわかるはずもなく、俺はモヤモヤしたまま洗面所で歯ブラシを加える。
居間に戻ってなんとなくテレビを点けると、そこに映っていたのは昔麻妃先輩が好きだと言っていた俳優の赤井英人。
…そういえばこの人、最近結婚したんだっけ。
俺は歯を磨きながらまたソファーに座ると、なんとなくそいつの姿をテレビ越しに眺めた。
「……、」
…俺の中には、どんなに今逢えなくても、麻妃先輩の存在が強すぎるんだ…。