初恋フォルティッシモ
ユリナはまたいつもの調子でそう言うと、顔を上げて俺を見つめる。
…そうは言うけど、今俺達の周りにはたくさんの人達が行き交っているのだ。
人混みの中でのこんな台詞も初めてではないけれど、なかなか慣れない俺は少しだけ辺りを見渡したあと、言った。
「…ち、チューてお前…マジかよ」
「嫌なの!?」
「や、嫌なんじゃなくて、」
「恥ずかしいんだ?意気地無しー」
「…」
ユリナはそう言うと、俺を見て悪戯に笑って見せる。
最近じゃ、こうやっていつも俺はユリナにやられっぱなしだ。
…でも、ずっとこうなのも俺の男としてのプライドが許さないから。
俺は小さく息を吐くと、やがて意を決してユリナに近づいた。
「っ…わーったよ」
「?」
そう言って、広げていた傘を閉じると、遠慮なくユリナのその中に入って彼女の肩に右腕を回す。
傘が邪魔をしてたぶん周りからキスは見られないから、俺はそれを利用してユリナにキスをした。
「…!」
触れるだけのキスをしてそれを離すと、少し顔を赤くしたユリナと目が合う。
「…これで許してくれる?」
そして至近距離でそう言ったら、ユリナは嬉しそうに言った。
「っ…もう一回!」
「!」
「もう一回やって!」