初恋フォルティッシモ

ユリナはそう言うと、「頑張ってね」と言葉を付け加える。


…ユリナの言葉を聞くまで忘れていたけど、俺はもうフリーターじゃなくなるのだ。

そういえば、次の仕事は毎日スーツだっけ。でも、ネクタイはマンションに一本しか置いてない。

スーツは何着かあるはずだけど。


……これはマズイな。


そんなことを考えていたらそのうちにコーヒーとチーズケーキが運ばれてきて、俺は早速それに手をつけるユリナに言った。



「ユリナ、俺このあと買い物してきていい?お前どっかテキトーなとこで待っててよ」

「え、やだユリナも行く!何買うの?」

「ネクタイ。次の仕事、毎日スーツなんだよねー」

「へぇーかっこいい…!あ、じゃあ指輪のお礼に、ユリナがとっておきのネクタイ選んであげる!」



…かっこいい、か?


そんなユリナの言葉に少し首を傾げる俺の向かいで、ユリナはチーズケーキを一口、口に含む。

そして、「おいしいー!」と幸せそうな笑顔を浮かべて…。


っつか、ユリナが選ぶ俺へのものって、たいてい変なものばっかなんだよな。

「浮気防止」とか言って。

こないだなんて珍しくプレゼントをくれたかと思えば靴下が10足くらい袋に入ってて、全部蛇模様だの浮世絵風だの使いづらいものばかりだった。

まぁ、それでも「靴下」だし。地味だけど。
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