初恋フォルティッシモ
「おー、久しぶりじゃん。どしたよ?」
その懐かしい声を聞きながらマンションまでの道を歩いていると、電話の向こうで後藤が言う。
『いや、お前さ、突然だけど今度いつ空いてる?』
「え。…あー…俺さ、来月から新しい会社に就くから、その準備とかでいろいろ忙しいんだよねぇ最近」
『は?マジで?正社員?』
「そう」
『すげーっ!』
…何が凄いのかはわからないけど、俺の言葉にそんな興奮ぎみの声を上げる後藤。
そっか、コイツも確かフリーターだっけ。
っつか、用件を言え用件を。
「っつか、何?久々に合コン?」
…だとしたらユリナが嫌がるんだよな。
俺はそう思いながら後藤に問いかけると、しばらく後藤と話す。
電話の理由はやっぱり「合コンするからお前も来い」で、俺はそれを断ってから後藤と他愛ない話をした。
…そのうちに、俺の足は暗い夜道から少し明るいホテル街に出る。
この道が、一番のマンションへの近道。
「え、あの彼女と別れたのお前!?」
『そうなんだよーっ!』
相変わらず雨もちらつくなかで、たくさんの人達とすれ違いながら先を急ぐ。
後藤の恋愛事情を聞きながら歩いていると、そのうちに俺はなんとなく“ある人影”に目が留まった。
「…?」
『したらさ、言葉が足りないとかワケわかんねぇこと言い出してさ、何なんだよって!』
「…、」
『今まで多少は我慢してたけど、そん時すげームカついてさ、』
「…」