初恋フォルティッシモ
俺はそう考えると、一番最悪だった過去のことを思い返してみた。
それは、俺が2年になった夏休みのこと。
相変わらずその頃も麻妃先輩のことが好きだった俺は、青田をライバル視しながらも少しずつ麻妃先輩との距離を縮めていた。
そして、そんな時。
ある日俺に、大きなチャンスがやってきた。
それは、吹奏楽部での初めての合宿。
この学校の吹奏楽部自体合宿は初めてだったらしく、三年生の最後のコンクールに向けてそれが数日にかけて行われた。
場所は、街から少し離れた大きめの施設。
一年の頃の俺なら合宿なんて「めんどくせー」だったけど、当時二年だった俺は少し成長して寧ろ「楽しみ」になっていた。
正直吹奏楽はキツイしまだわからないことだらけだけど、麻妃先輩がいるならまた話は別。
まさかこの数日のうちに“あんな出来事”が起こるとは予想出来ずに、俺はただ純粋にこの数日間を楽しもうと思った。
だってもうこの時は既に、麻妃先輩と逢えなくなるその時に向けてのカウントダウンが、始まっていたから…。
「三島くん、お菓子食べる?」
そして、なんとなく行きのバスの中で通路を挟んだ隣から麻妃先輩に目を向けていたら、ふいにその時いきなり麻妃先輩が俺の方を向いて、そんなことを聞いてきた。
「えっ、あ、」
「?」
まさか話しかけられるとは思ってもみなかった俺は、柄にもなく少しだけうろたえる。
甘いものは苦手だけど、麻妃先輩から貰えるなら、と「食べます!」と言おうとしたら、その時麻妃先輩の隣に座っている三年生の先輩が笑って言った。
「麻妃ー。遠足に来てるんじゃないんだからー」