初恋フォルティッシモ

合宿は、二泊三日で行われる。

その間にコンクールに向けて合奏をしたり、楽器ごとに別れて練習したり、その間に個人練習を挟んだりして、とにかく皆で金賞を狙っていく。

施設に着いたら練習の前にそれぞれの部屋に行って、荷物を置いて練習を始める準備をした。


この俺達の吹奏楽部の男子は俺を含めて数人程度しかいないから、皆同じ部屋だ。

ただ、女子達とは違う階に部屋があり、俺達は二階だけど女子の皆は三階。


ひと部屋で8人ずつ寝れるらしく、練習の準備をしながら“松下”が言った。



「三島先輩っ、夜になったら女子の部屋に行きませんかっ?」

「えっ」



松下とは、今年吹奏楽部に入部した一年で、コンクールの曲ではパーカッションのグロッケンを担当している。

一年は基本コンクールに出れないから今回の合宿には参加していないけれど、パーカッションだけは一年もコンクールに出るから、こうやって松下だけは合宿にも参加している。

俺は松下の言葉を聞くと、サックスをケースから出しながら言った。



「…いいけどたぶん木谷(先生)が見張ってるぜ?」

「だーいじょぶっすよ!寝る前の点呼が終わってからだったら楽勝っすから!」

「ふーん。…んじゃ行くか!」

「さっすが先輩っ」



…って、女子の部屋なんて複数ありすぎて、どの部屋に行くつもりなのか知らないけど。

出来れば、麻妃先輩がいる部屋がいい。

だけどそんなことはストレートに言えずに、松下と「やっぱ可愛いコがいる部屋がいいよな」なんて言って笑った。
< 138 / 278 >

この作品をシェア

pagetop