初恋フォルティッシモ

俺がそんなことを思いながらキョロキョロしていたら、そんな俺に麻妃先輩が不思議そうに言った。



「どうかした?」

「いや、青田もまだ来てな…」

「ああ。青田くんは呼んでないからね。来ないよ」

「!」



麻妃先輩はそう言うと、「座って」とその辺にあった椅子を取り出す。



「…」



その言葉に、俺はようやくこの状況を理解する。

2年になってからはしばらく無かったけど、これはたぶん…いや絶対久々の個人指導だ。

きっと麻妃先輩は、昼間の俺の練習を見て呆れ、ここに呼び出したに違いない。


あーマジかよー。

俺すげー頑張ってたのに今日。


俺はやがてそんなことに気がつくと、だけどそれは口にはせずに渋々とその椅子に腰を下ろした。

…サックスがいつもより重く感じる。

そして部屋から持ってきた楽譜を近くの机の上に置くと、麻妃先輩が俺の向かいに座って言った。



「三島くん、楽器重いでしょ?置いていいよ、床に」

「え、」



麻妃先輩はそう言うと、「今日は疲れたからね」って苦笑いを浮かべる。


でも…そんなまさかの麻妃先輩の言葉に、俺は戸惑い顔。

うそ。楽器必要ないってこと?じゃあ麻妃先輩は何しに俺をここに呼んだんだよ。
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