初恋フォルティッシモ
そこまで思うと、もう何度目かわからないため息を吐く。
その時たまたま視線を遣った先に鏡に映る自分がいて、俺は思わずそいつに向かって中指を立てた。
…あの出来事以来、俺はサックスという楽器を手にしていない。
あの時麻妃先輩の涙を見てやっと自分が犯した罪の重さに気がついた俺は、麻妃先輩以外の周りの奴等にどれだけ止められようが、あの出来事のあとすぐに部活を辞めた。
するとその後、しばらくしてから青田と麻妃先輩が付き合い出したなんて噂が流れて、俺は麻妃先輩と一緒になるのはもう完全に無理だと思った。
だけど、もちろんそんな中途半端なままじゃ諦めもつかなくて。
麻妃先輩が学校を卒業してしまうその日に、俺は最後の決心をした。
あの合宿でのことを、麻妃先輩に謝ろうと。
そして、断られても…最悪シカトされてもいいから、麻妃先輩に自分の気持ちをちゃんと伝えようと。
そんな決心をして、卒業式の後に俺は生徒玄関で麻妃先輩を待った。
そしたらあの日、麻妃先輩がそこに現れたのは意外とすぐだった。
麻妃先輩は吹奏楽部の後輩達から色紙や花束を貰ったらしく、それを抱えて…
…だけど。
「麻妃先輩!」
「!」
俺が少し離れた場所から麻妃先輩を呼び止めたら、その声は本人には届かずに、
その時同じタイミングで麻妃先輩を呼んだらしい青田が、ふいに麻妃先輩の隣に並んだ。
「…!」
仲良く笑い合う、二人の姿。
その光景に、ついさっきまであったはずの決心が、一気にしぼんでしまう。
「…っ…」